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白衣に銃弾  作者: 狗山黒
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プロローグ

 決して豪華絢爛とは言えない内装。しかし、普通の家族が仲良く暮らしている風景が浮かび上がる雰囲気。そんな部屋の中に場違いな男三人と夫婦。

 夫婦は二人掛けのソファに座っている。片方は俺にそっくりな顔をしていて、もう片方は俺とよく似た色素の持ち主。何を隠そう、何も隠れてないが俺の両親だ。

 双子のアンと悪刀(オト)は俺を盾にするように、背後に連なっている。二人を庇うつもりはないが、俺は両親の前に正座している。

 レオンカヴァルロにとって目の敵だったズッパイングレーゼを潰したことに対して、レオンカヴァルロから報酬が出た。親戚のお姉さんから手伝いのお返しに小遣いをもらったのと同意だが、手伝いが物騒だし金額も物騒だった。

 しかしその物騒なお金は瞬く間に消えた。ズッパイングレーゼの策略により、吹き飛んで床しか残ってないといっても過言ではない元我が家の修繕に消えた。その上追い出され、家なしだ。

 それでも僅かばかり残った金は俺達の胃の中だ。その代わり財布は空。

 何でも屋が廃業したわけじゃない。ただ一帯を支配するレオンカヴァルロの親戚だと知れたおかげで、ビビって客が殆ど来なくなった。もし来たとしても上客じゃない。猫探しとかだ。つまり金がない。

 お金がないなら働けばいいじゃない。そんな言葉が聞こえてきそうだ。空腹のあまり幻覚か。

「幻覚じゃないよ」

 母の声だった。

「そりゃ、アルバイトしてみたさ」

 ここで俺の反撃、必殺言い訳。

 言葉の通りアルバイトはしてみた。しかし戦闘狂であるドミヌスの双子にまともな職が見つかるわけはなく、見つかってもすぐに喧嘩沙汰でクビだ。そして俺は雇われない。俺はレオンカヴァルロの親戚だ。何かあったら殺される、肉体的にも社会的にも。

 そういう旨の話をすると「仕方ないね」と父が言った。正直言って父親だとは思ってない、近所のおっさんくらいにしか思えない。だって最近ようやく母と籍をいれたんだ。いくら血が繋がってても、そうほいほいと父親と認識できるほど、俺は物分りのいい人間じゃない。しょうがないじゃないか、四半世紀ずっと近所の「大佐」だったんだから。

「家族団欒といこうじゃないか」

 垂れた目を細めて、愉しそうに大佐は言った。俺が望んでた言葉と違う。

 俺が欲しいのは家族団欒でも家でもない、金だ。

「いや、あの、金は」

「何を言ってる? 一緒に暮らせば金はいらないだろ」

「でもですね、俺ももう二十五でして、独り立ちをですね」

「いやいや、今まで一緒に暮らせなかった分を取り戻すんだ。そっちの双子ちゃんは弟なんだろ、共に暮らそう」

 なぜにこの人は楽しそうなのか。そして、なぜ母も笑っているのか。

 振り向いてみると双子も怪訝な顔をして、俺を通りこし二人の姿を見つめていた。

 両親の方を見ると、にこやかに俺を見下ろしていた。

 逆らえないな。二十五年の間に培われた防衛本能がそう囁いた。



 かくして俺達は実家に居候することになった。居候と言うと他人の家にいるかに聞こえるが、俺の感覚はそれで間違ってない。大佐のいる家は、どこかよそよそしい。母親と特別仲がよかったわけじゃないから嫉妬とかはないが、気まずい。どれくらい気まずいかというと、密室に顔を知ってる程度の人と閉じ込められたときくらい気まずい。神経性胃炎になりそうだ。

 何をしているのか知らないが昼間はいない大佐と、仕事の下見に出たり散歩したりしている泥棒を生業とする母に代わって俺達が家事をすることになった。その代わり食事と寝床を提供していただくのだ。親とはいえ他人、母の有難い言葉である。

 正直俺達は家事が得意とはいえない。男三人で暮らしてたせいか部屋が汚くても大して気にならないし、そもそも街そのものが汚いのに部屋の中なんて、というのもある。下手したら一週間同じ服のときだってあるが、それだってなんとも思わない。料理はしなくても買えばいい。とりあえず寝床さえあればいい、という生活をしてきた。そんな俺達に生活能力があるわけはなかった。俺達、もとい俺にあるのは家計をやりくりする能力だけだ。

 ところが、だからといって家事をおざなりにするのは母が許さなかった。女としての本能だろうか、家事を手抜きにすると食事を減らされた。成人男性と成長期男子には痛い仕打ちだ。結果的に俺達はプチ家政婦になったのである。

 家事能力どころか生活能力さえ怪しい俺達だが、それでもなんとかなるものである。掃除や洗濯は機械がやってくれるし、料理もレシピ通りにすればどうにかなる。

 そうなると、暇ができ何でも屋復活である。勿論、猫探しとかばかりだが。

 一通り家事を終え依頼を受ける。生活スタイルが定まってきた。

 金をためて早く家を出よう。この件に関しては双子も文句なく賛成してきた。おそらく本来は貯金能力などないだろう二人もこの金には手を付けようとはしない。

以前依頼を受けていたのは、俺達の住んでた家だった。つまり事務所兼住居だったということだ。今は煙草屋もとい情報屋の(シェン)(ハイ)さんに仲介を頼んでいる。

ズッパイングレーゼ襲撃以来、彼とは仲良くさせてもらっている。彼が助けになったかと言われれば微妙だが、彼がいなければ双子達がレオンカヴァルロと面識を持つことはなかっただろう(俺はレオンカヴァルロの遠縁だからいずれ知り合う運命だったのだろう)。それに何より、直接何もしてないが俺達が沈海さんの命を救ったようなものだ。売れる恩は売っておくのが一番。情報料も多少(五パーセント引きくらい)安くしてもらうことになってる。ただし情報が必要な仕事は、あれ以来受けてないが。

 依頼を受けに沈海さん宅へ行くと、大体ヴェロニカさんがいる。例の親戚のお姉さんである。三十歳前後の若さにして、何より女の身で無法地帯であるこのシフォンを牛耳る(といっても過言ではない)レオンカヴァルロを束ねているスーパーウーマンだ。そのスーパーウーマンは沈海さんに惚れた挙句、現在婚約中らしい。ヴェロニカさんが惚れなければ沈海さんが命を狙われることもなかったのだが、今や誰もそんなことを気にしてない。お熱いこって。

 双子に留守番を任せ、一人で依頼の確認にくると今日もヴェロニカさんがいた。沈海さんにくっつこうとしてるが適当にあしらわれていた。本当にこれがあの怖いスーパーウーマンなのか。

 届いていた依頼は、いつも通りペット探しと買い物の依頼だった。俺がセールに詳しいのにかこつけて、よぼよぼのばあちゃんとかがよく頼みにくる。モテたいとは特に思わないが、ばあちゃんにばかり好かれても素直に喜べない。

 ヴェロニカさんは、大抵沈海さんに(・)いちゃつく(沈海さんと(・)いちゃつくのではない)のに忙しく、俺と話すことは少ない。挨拶程度だ。

 だが今日は違った。珍しくあちらから話かけてきた。

「最近、また地下実験が活発になってきてるそうよ。若いドミヌスはいい実験材料だから狙われないようにね」

「レオンカヴァルロの力で止めて下さいよ」

「それは無理ね。うちはあの実験に関わってないけど、それでもマフィアにとってもそれなりに益のあるものなんだから。下手なことすると、均衡が崩れて大変なことになりかねないわ。いくらうちがでかくて強くても、シフォン全てのマフィアに背かれたら潰れるわ」

 当然だが、裏にはマフィアがいた。そうなるとレオンカヴァルロは動いてはくれない。強いからといって迂闊な行動はとれない。慎重にやってきたからこそ、大きな勢力を持っているのだ。ヴェロニカさんはそこの長だ。基本的に誰か一人(一名様を除き)

に寄りはしない。

 期待はしていなかったが、世知辛い世の中だ、と俺はため息を吐いた。もっと俺に優しい世界になってくれ。

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