影武者
2×××年、日本。
国民にはそれぞれ「ナンバー」が与えられ、意外にもスンナリと定着していた。
その定着具合といったら、個人情報保護の観点から不特定多数の人前では【名前】ではなく【ナンバー】で呼ぶ程だ。
例えば病院や飲食店での順番待ちなどでは「田中美智子さ~ん」などと呼ばれることはなく「ナンバー123456789番さ~ん」という具合に。
これは呼ばれる方にとっては好都合である場合も多いが、呼ぶ方は桁が桁だけに大概面倒なものではある。
そんな呼ぶ側の病院関係者や店員のネームプレートもナンバーの記載のみ。
最早【名前】というのは身内や親しい間柄でしか使わない。
某SNSも数世代も前に廃れ、代わりに台頭したSNSサイトも仮名での登録ばかりになっていた。
今やインターネット上に顔や本名を公開する人物など一人もいない。
時の総理大臣のナンバーは11111番。
キリのいいゾロ番なのは偶然ではない。
11111番=総理大臣ナンバーとして代々受け継がれていく。
与党も党首もコロコロと変わる時代、11111番=総理大臣という認識の方が顔と名前の一致よりも定着していた。
そんな時代、ある中年男性がいた。
男のナンバーは11117。
このナンバーを得たものの幸運だろうか。
男は故意に7があたかも1であるかのように書き、日常的にオイシイ思いをすることも多かった。
総理大臣だと勘違いした人は、男を興味の目で見つつ丁重に扱う。
総理大臣が丁重に扱われる、つまりこの時代の政治は悪く無かった。
というよりも政権が移り過ぎて、多少世知辛い御時世でも責任の所在が曖昧だった。
取り敢えず偉い人に対して丁重に扱っている、という方が正しいのかもしれない。
そんなある日。
総理大臣がテロ事件に巻き込まれるという事態が起こった。
爆破事件である。
テロをお越したのは無名の一般集団であり、矛先の理解らない鬱憤を只晴らすための過激組織だった。
件のテロ集団は即座にお縄、となったわけなのだが。
逮捕後、どういう訳かTVのニュース速報では【テロの被害に遭ったのは総理大臣ではなく一般市民】という旨のテロップが流れる。
お察しの通り、11117番の男である。
“ナンバー違いで不運”に見舞われてしまったのだろう。
不運。
ではあるのだが、実の所、時の総理大臣と男は顔も背格好も良く似ていた。
不運の始まりは2ヶ月程前に遡る。
時の総理大臣が現職に就任した頃。
男は役所に向かっていた。
どういう訳か、男のナンバー記録が手違いで抹消されてしまったというのだ。
新しく発行されたナンバーは11117。
時を同じくして、“11118”が再交付された男もいたが、やはり総理大臣にそっくりな風貌だった。
事件後、“11117は同様の流れで別の人物に再交付がなされたようだ。
もしもナンバーの不自然な再交付があった場合は、気をつけた方が良いのかもしれない。
元ネタが見た夢だけに、粗だらけなオハナシですが、読んでいただいてありがとうございました(*^^*)