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わたしと運勢の管理人  作者: 椎名忍・四谷伊織
特殊な体質
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特殊な体質1

 「衣羽はここを"運の無い者を助けてくれる場所”ってことで探してたんだよね?」


 質問に大きく頷く。


 「まあ、あながち間違いではないんだけどね…。その地図、昔僕が適当に書いて壬影あいうに渡せたやつだから辿り着ける筈はないんだ」


 ミキは少し冷めたコーヒーを一口飲み、話を続ける。


 「僕の仕事はただの管理人バランサーなんだ。運の無い人を助けるってゆうより、幸運を持ちすぎてる人から分けてるだけ」


 「わける…?」


 「そう。運っていうのは無さすぎても持ちすぎても良いことはないからね。でも均等に分かれてる訳じゃないから、管理人が必要なんだ」


 「じゃ、じゃあ…私にも運を分けてもらえるんですか?」


 期待を込めた言葉にミキは申し訳なさそうに首を横に振る。


 「…残念だけど…衣羽は例外なんだ」


 「例外……」


 ミキの表情を見る限りでは"良い方"の例外では無い事が伺えた。


 「衣羽はね、そもそも"運"を全く持ってないし、持てない人間なんだよ。今まで良い事は無かったでしょう?」


 思い返さずとも自分の記憶の中に良い事が無いのはわかる。


 「本当はこの世にせいを受けた時点でカミサマが運を振り分けるんだけどね、その振り分けから漏れてしまったのが君なんだ」


 そんなの信じられないと思ったのが顔に出ていたらしく、ミキは見逃さなかった。


 「信じられないかもしれないけどホントの話なんだよ。今まで良い事が無かったのもそもそも運を持っていないからだし。

 何より厄介なのが周りにも影響しちゃう事だね。

 君が居るだけで周囲の運は作用する事無く消えて行ってしまうから、衣羽の身近な人も運が無くなってしまって不幸に遭ってしまうんだ」


 思い当たる節は沢山あった。


 「それで、君の存在なんだけどね」

 「……はあ…」


 目の前にミキの華奢な手のひらが出された。


 「本来なら、運を持てないそういった人間には15の誕生日にカミサマから"特別な力"を渡されるんだよ」


 ポッと音を立ててその白い手からオレンジ色の光が浮かんだ。

 「……っ!?!?」

 驚きで目が丸くなる私を、ミキは小さく笑った。


 「あ……あのっ!そしたら…その話が本当なら…私も"特別な力"って言うのを渡されるって事ですか……?」


 自分はすでに17歳。しかし、その力とやらを受け取った記憶は微塵もない。渡されるのには個人差があるのだろうか。


 そんな問いに、彼は白い手で橙の光を握り潰すと、弾けた粒を目で追った。全て消えた所で口を開く。


 「君は特殊すぎるんだ。違う地区の管理人とはたまに情報の共有をするけど、力を渡されてない者がいるって話は全く聞いたことないな…。

 それに、同じ力を持つ者がテリトリーに入ると感知できるんだけど…。

 君の事は全くわからなかったから、やっぱり力を持っていないって事で確かなんだよね…」


 話す事を躊躇うように口をつぐみ、少しの間が空く。



 「……ありえないんだよ。力を持たずにその歳まで命があるなんて」


 もうすっかりコーヒーは冷たくなっていた。


 ミキの話を理解はできていないが言葉の意味はわかった。


 「……で、でも…私…生きてます…」

 さっき死ぬところだったけど。


 「僕が助けたからね」

 即答で返され、そして自分へ真っ直ぐと人差し指突き出される


 「原因は、多分そのピアスだよ」


 それは普段から常に身に付けている真紅のピアス。


 ふと、それに触れれば記憶に懐かしい声が蘇る。



 「「衣羽にプレゼント。絶対に手放しちゃダメだよ」」


 いつも優しくて大好きな"壬影さん(お父さん)"



 「これ……?」



 ピピピピッ!ピピピピッ!


 突然の電話の呼び出し音に思い出に浸りかかけた頭をハッとさせる。音の発信源はミキのすぐ後ろにあり、彼は腕だけを伸ばし受話器をとった。


 「はい。ミキです…、…はい…」


 緊張した空気が途切れ、これまでの話を整理するかのように大きく息を吐いた。


 壬影さん……。


 心の支えとなっていた人物を思いながら天井を仰ぐ。軽くピアスに触れたとき、ふと指先に違和感を感じた。


 耳たぶから外し手のひらに転がすと真っ赤な表面に亀裂が入っていた。


 「…そんな……ツイてない……」


 半ベソをかいているとミキの通話が終わる。


 私の手のひらを覗き込むと不自然なほどニンマリと口角を上げた。


 「グットタイミングだね。依頼が入った。衣羽もついてきて」


 コーヒーを一気に飲み干すと、早足で部屋を出ていってしまった。少し遠くからまた声が聞こえる。

 「あ!それ(ピアス)は着けてきてね!」


 唐突すぎる事態を把握出来ないまま、言われた通りに従い小さな背中を追うしかなかった。


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