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わたしと運勢の管理人  作者: 椎名忍・四谷伊織
集う、同業者達
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虎卯双子

 ――…それは猿の姿が見えなくなりすぐの事だった。


 「あら?あなた誰かしら?」

 「噂の”空容器”じゃない?」


 玄関を叩く音が響き、来客を迎えに出ると、目に飛び込んで来たのは異世界から出てきたかのような二人。


 片方はピンク色のツインテールにフリルとレースがふんだんにあしらわれた、所謂"ロリータ"と呼ばれる服を身に纏った姿。

 もう片方は、短い髪を綺麗な金色にし、所々見える手首や鎖骨には大きめの銀のアクセサリーが光る。黒を多めに使った、シンプルな服装は隣に並んでいるロリータとのバランスを上手く取っている気がする。


 そして何より目を引くのはそんな二人の顔。髪色や格好は違えど、全くの同じ顔なのだ。

気の強そうな瞳も、鼻筋も、唇の形も、全てが同じ。


「……っ!?…あのっ……」


混乱した思考回路でその二人が”双子”であると認識するまで少し時間を有した。そして、二人が何者なのかはわからないが、"依頼主"では無いことを空気で察する。


 「さて、お邪魔するわよ」

 「うん。邪魔するよ」


 しかし正体を問う前に、双子は遠慮など無しにオフィスへ上がると、迷うこと無く応接室へ足を向けた。


 「えっ!あ、ちょっと…」


 戸惑う私には目もくれず、ロリータはこのオフィスの主が居る部屋の扉をあけた。


 「久しぶりね!へびの管理人!」

 「久しぶり。巳の管理人」


慌てて私も後に続く。

ソファに深く腰を掛けたむあるじはコーヒーを口に運びながらこちらを向いていた。なんとなく予想は出来たが、彼の表情はとても歓迎しているような顔はしていなかった。





 「とらと、うさぎ…のようじゃのう」


 パンを奪われ、仕方なく白米を頬張る色葉が呟いた。最近キッチンに設置した一人掛けのテーブルセットに、神様とは到底思えないラフな格好で座っている。


 「じゃあ、やっぱり…管理人なんだ」


 来客にお茶を淹れながら、最初の台詞を思い出す。私を見るなり"空容器"と言った。ミキの事も"管理人"と言っていたし、関係者なのだろうとは考えていた。

のれんを隔てた向こう側では3人の話し声が聞こえる。

このタイミングでの管理人の来訪と、わずかに聞こえる単語でその話題が何かが察する事が出来た。


 「これで先刻の泥棒猿にも説明がつくのう…」

呟いた色葉が空のお茶碗を突き出す。それを受け取り、追加で白米を盛りながら言葉の続きを聞く。


 「さるとらの師じゃよ。ミキのあの様子じゃと、気づいておった様じゃな」

 まるで自分もわかっていたかの素振りで話してはいるが、あの瞬間、パンを掴んだ猿に自身が出した炎を振りかざしていた姿を私は忘れない。


 「そうだったんだ…色葉さんは申さんに会ったことあるの?」


 「……ふむ。そもそも我が管理人共と、それなりに交流しておったのはもう何百余年と昔じゃ。ほとんどが世代交代しておるじゃろうから、知らない顔ばかりやもしれん」


 「そう……なんだ……」


 目の前にいる者がながい時間を過ごしている事を思い出す。それでもなお、こうして若々しい姿をしている彼女が人外の存在であると再認識する。


 「………湯気が噴き出しておるぞ」


 「…っ!? ああっ!」


 本来の目的を忘れかけていた。わたわたと火を止め、お茶を淹れるなり客人の元へと運ぶためにおぼんを持った。


 「衣羽の本来の居場所はここじゃぞ」


 「……えっ?」


 のれんを潜る直前で言われたその言葉。

だが、意味を問う前に飛んできたのは客人の声だった。


 「ちょっと!お茶すら出ないっていうの!?」


 「ふぁっ!あっ、今、お持ちしますっ!」


応接室にはソファから立ち上がったロリータが腹を立てていた。


 「あんまりイライラするとお肌に悪いらしいよ」


背もたれからのぞく金髪は落ち着いた口調だった。


どうやら、顔や背丈は同じでも性格は真逆のようだ。


 「しかしあのフリフリのころも…興味深いのう…」


 耳を疑う様な狐の言葉を背中に、私は急いで管理人の元へと向かった。


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