表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたしと運勢の管理人  作者: 椎名忍・四谷伊織
白い少年
3/32

白い少年3

 少年の後を追うと人影の無い通りから、さらに何も無いような裏路地へ入って行く。両側にそびえ立つビルに遮られ陽もあまり届かず薄暗い。


(この子は…何者なんだろう…どこに向かってるんだろう…)


 春だというのに、冷たい風が路地を通り抜け、目の前の白い少年の髪も揺れた。薄く甘い香りが流れてきた。


 先程の死の危機は今になって身体に現れ、手足が少し震えが出てきた。そのせいで、なんだか地に足がついていない感覚だ。片腕でトラックを止めるという魔法のような場面も見てしまった。


 実際は、本当に死んでいて、天使である少年にあの世に案内されているのでは?なんて考えてしまう。


 現実味の無い状態に、頬をつねってみるが、ばっちり痛みはあり、死んでもいないし、夢でもないんだなと実感する。


 路地を進み、とある扉の前で立ち止まる。無機質なコンクリートの壁に鉄の扉で、何かの裏口といった様な出で立ちだった。


 ただ、そんな扉に木で出来た掛け看板がついていた。筆記体の英字で"office・MIKI"と書かれている。



 「オフィス…ミキ…?」


 一気に怪しくなる。だが、そんなことは気にも止めず、彼は慣れた手つきで鍵を開けた。

 「キィ…」と古臭い音を立てて開いた所に少年は入って行く。


 「なにしてんの?早く入りなよ」


 入って良いものかと躊躇していると、少年はスリッパを出しながら促した。


 そして案内されるがままに真っ直ぐ伸びた廊下を進み、突き当りの部屋へ案内される。

 入り口をくぐると甘い香りに包まれた。鼻の奥に残るのに、なんだか心地いい香り。


 あの子からした匂いだ。


 匂いの正体はすぐ左側にあった。腰程の高さの棚にカラフルな陶器が置いてあり、そこからゆらゆらと香煙がのぼっている。


 内は10畳ほどの広さで窓からのわずかな光をガラスのテーブルが反射させている。そしてそれを挟むように黒いソファがあった。


 室内は光と香煙が混ざり幻想的だった。


 この部屋の空気が心地よく、手足の震えが治まっていく気がした。



 カラフルな陶器に合わせたカラフルなのれんが入口のすぐ右側にある。その先はキッチンとなっているようで、白い少年がマグカップを両手に持って出てきた。


 「何してるの?そこに座りなよ。」

 上の空でボーっとしていた私は声を掛けられ、少年へ意識を移す。テーブルにマグカップを置く姿があった。


 静かにソファへ近づくが座ることに少し躊躇っているとすでに向かい側に座っていた少年が「どうぞ。」と、手で促した。



 黒いソファには皮のひんやりとした感触と下半身が埋まってしまいそうなくらいの柔らかさがあり、座るだけで緊張がほどけて行く気がした。


 「まあ、飲みなよ」


 マグカップはカラフルなかわいらしいコースターに乗っていた。勧められるままに少年の淹れたコーヒーを口にする。


 カップを置いたところで先に言葉を発したのは少年だった。


 「で、君には聞きたいことが沢山あるんだけど」


 少年の薄い色の真っ直ぐな瞳がこちらを見る。


 「わっ…わたくしっ…たたたたから いはねとっ…ももも申しますっ」


 まだ特に質問はされてないが、反射的に自己紹介をしてしまった。


 「さ、先程は……助けて頂いて、ありがとうございます…」

 早く言わねばと思っていた言葉も口にできた。


 少し驚いたような眼をした少年は少しの間の後、口を開く。


 「たからい はね?字はどう書くの?」


 そう言って膝に肘を置いた前傾姿勢になる。真っ直ぐな瞳は相変わらずだ。


 「よ、よく間違えられるのですが、たから・いはね でして…宝石ほうせきほうと書いて、名前がころもはね衣羽いはねと読みます」


 「ふーん、めでたい名前だね」

 「へへ…よく、言われます」

 「まあ、目出度いのは名前だけってとこでしょ」

 「……えっ…あっ…まあ…」


 今まで言われ続けてきた事を初対面の少年に言われる。


 そんなに幸薄そうに見えるのだろうか……。


 「あぁ、僕の自己紹介がまだだったね」

 少年の上半身が起き上がり、今度は背もたれに深く背中を預ける。


 「僕の名前は巳己(ミキ)。このオフィスのあるじさ」


 入り口に掛かっていた看板を思い出す。


 「こ…こんな子供が……」

 驚きを隠せなかった。


 ”子供”と言った事に少し不快な表情をしながら彼の言葉は続く。


「まあ、こんな姿だから最初はみんな信じてくれないんだけどね」


 シニカルに笑うミキの表情はどこか大人びていた。


 「ここは、簡単に言えば”運の無い者を助ける場所”」


 その言葉にこの地に足を運んだ理由を思い出す。


 「あっ!こっ、これ!」


 ぐしゃぐしゃになった地図をポケットから取り出す。

 「わ、私、ここを探してたんです!!!」


 地図を見た途端、少年の表情は曇った。


 「その地図、どこで手に入れた?」


 「え、施設の倉庫に…」


 「施設?」


 「あっ、私の居た養護施設です!もうなくなっちゃったんですけど……」


 「……ふうん。聞きたいんだけど、さっき”壬影みかげ”って言葉を口にしてたけど、詳しく教えてくれる?」


 「壬影さんですか?その施設の施設長です。今は居なくなっちゃったんですけど…」


 「……その、身に付けている赤いピアスは……」


 「あっ、これですか?その壬影さんにもらいました!すごく優しい方で……」


 思い出が蘇り、少し涙が出そうになる。


 一方、ミキはその話を聞けば聞くほど眉間のシワが深くなる。


 そして少し悩むような素振りをした後大きく息を吐いた。


 「……やっぱり、僕の知ってる”壬影”と同じか…何を考えているんだ…君のような存在を手元に置いて……」


 「私の…存在…?」


 「君は何も知らないんだね。しょうがないから説明してあげるよ」


 そういったミキの顔は困ったような、少し面倒くさそうな表情が浮いていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ