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わたしと運勢の管理人  作者: 椎名忍・四谷伊織
妖狐襲来
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妖狐襲来5

さて、どうしたものか。

すっかり油断をしていた。


現在、僕の目の前には新米助手に憑依した白狐しらぎつねがいる。


彼女の真っ黒だったおかっぱ頭は朱色に染まり、白い耳まで着いている。


「僕はケモミミ属性じゃあないんだけどね」

と、気休めにもならないセリフをつぶやいてみる。


ここに来るまでに、幾つか仮定を立てていた。


その壱。

相手が何かしらのバケモノだった場合。

一番簡単に済むのがこれ。

なんたってツチに喰わせればいい。



その弐。

力を持った"物"だった場合。


これは洋子さんの所でやったみたいに、力を抜き取るか。

それか無効化する術をかけてしまえばいい。


そして、その参。

この神社で信仰されている"神"だった場合。


さすがにこの線は薄いと思っていた。

取り壊されているという事は神主も、通う信者も居ないという事。


万が一、神が居ても力は弱っている筈だった。

信仰を無くした神は最早何者でも無い。


適当に説得でもして、別の神社を探してやればいいだろう。

なんて、考えてた。


もちろん、気を奪われる事も想定の範囲内。


だが僕の力は奪えないし、衣羽はそもそもすっからかんだから奪う物は何もない。


弱った神に成す術は無い筈だった。



「まさか人間に憑依するなんて。

      ………随分、堕ちたね」



狐の白い耳がピクリと動く。

「なんじゃ?挑発のつもりか?」


衣羽の顔でニヤリと口角を上げるその表情は違和感そのものだった。


「実体を保てねえほど弱っちまったんだろ?惨めなもんだな」

僕の身体を囲む様にとぐろを巻いたツチは皮肉に笑う。


((おい、ミキ。どうするつもりだ?))

内側に聞こえる低い声。


(とりあえずは衣羽から抜けてもらわないと…)


衣羽の真名を知らない分、憑依されたままこの結界の外には出れないのが唯一の救いだ。

だが、流石に"契約"も無しに長時間憑かれてしまうのは肉体が耐えられない。


(神は祓う側の存在だから、自分から出ていって貰わないと…)


説得するか、力ずくしかない。


(……できれば前者がいいんだけどね)



「蛇の童よ、力ずくでもいいんじゃぞ?」

広げている両手の先に青い狐火が燃え盛る。


「今の貴女に僕を倒せる程の力があるのかい?」


「たかが運使いが……馬鹿にしおって…」


衣羽()の指先が少し動くと。



激しく燃えた青い炎がこちらに向かって飛ぶ。

顔面をめがけてきたそれは避けずとも右へ逸れた。

ほんの少し毛先が燃えた。


「危っねえだろ!狐えぇ!!」


いや、僕では無くツチを狙っていたのかもしれない。



「ねえ、稲荷神さん。どうして人間の気なんて喰べていたのかな?」


説得するコツは先ずは相手の話を聞く事から。

何かの刑事ドラマで見た事がまさか今、活用されるとは。



「どうしてじゃと思う?」

神はすでに次の炎を両手にセットしていた。



「まあ、単純に考えて住まいを壊されたから…かな?」


本当に単純だが。


しかし"稲荷神"ともなればここに留まらずとも…


「そうじゃ」


なんと。呆気なく正解してしまった。



「そんなにここに思い入れでもあったの?

こんな、神主も、信者も居ない所に」


「思い入れ……か。そんなものは無いのう。

ただ、我にはこの場以外の神社ところに行けぬのじゃ」



僕の予想では、他に移るための力を蓄える為、喰べているのかと。



「元はと言えばあの憎き子鼠のせいじゃ……」

小さく呟いた狐が下を向き、地面に転がった紅い粒を見つける。


「ふむ。この容れ物(おなご)の耳飾りから奴の臭いがしたのう」


青い炎が揺れ、紅い粒へ落とす。


「……気に入らぬ。忌々しい…」

燃え盛る炎の中で塵になっていくピアス。


彼女が肌身離さず大切にしていた物は救出できなかった。



しかし、お陰で解決の糸口は見えた。


(悪いな衣羽。でも、もしかしたら説得出来るかもしれないよ)




「彼女はつい最近まで、その子鼠に育てられていたんだよ」




僕の言葉に狐の動きが止まる。


朱い髪の毛が揺れ、空気が動き出した。


「なんじゃと……?」


「衣羽は、あのみかげを父として慕ってるんだ」



「…彼奴め…次は何を企んでおるのじゃ…」



ふむ。どうやらこの稲荷神も、壬影と関わりがあるようだ。

しかも様子を見るに悪い方の関わり。


「僕もあの男には"借り"があるんだ」



また、白い耳が動く。


「……僕と、手を組まない?」



そして、稲荷神との交渉が始まった。



そう、それは。

衣羽と出会い、壬影の名前が浮かんだ時。


いい加減、あの男を止める手立てを考えなければと思った。



彼は僕達と同じ管理人だった。

そう。過去形で。



「私はね、カミサマになりたいんだ」


まだ管理人だった頃、壬影は言った。

その時は何かの冗談だと思った。


僕達管理人は、力を与えられた時点でそれ以外の何者にもなれない。

ましてや、その力を与えるカミサマになる方法など、誰も知らないのだ。



それからだった。

アイツはおかしくなった。


抜き取った運を分け与えず、溜め込むような事をしたり。

各地の、神にまつわる特殊な力の噂を聞けば調べに行ったり。



そして。


僕の師匠でもあった、同じ管理人の"亥"を殺害した。



それから行方を眩ました壬影。

稀に聞く噂に、良い物は無い。



そして最近、衣羽に出会った。

管理人としての器を持つ存在。


だが力を持たず、何も知らない彼女は壬影の手中に居たわけで。


「管理人は縁を持った人間は護らなければならない」と。

師匠の口癖だ。


僕は彼女と縁を持ってしまったわけで。


壬影が何を企んでいるか分からないが、

自分の力を込めた、紅いピアスを着けさせていたのだから

衣羽に接触してくる可能性は高い。


護る為にも、あの男を止める為にも力が必要だ。



今、目の前に居る稲荷神。

古より狐は鼠を狩る事から、豊作の神として祀られてきた。


要は、の壬影からしたら相性が悪い。

衣羽を護るには最適だ。



うぬは管理人であろう。依り代の契約は出来ぬぞ」


「いいや。契約してもらうのは彼女とだよ」


「……ほう?」


僕の話に狐は興味を持ってくれたようだ。


「見ての通り、衣羽は空っぽ。

依り代に最適だと思うんだけど」



「かっかっかっ!

この我が童に口説かれるとはのう!」

腹を抱えて笑う狐。


「我と汝の利害は一致しておるという事じゃな?」


「うん。僕と、鼠退治をしてくれない?」


「面白い童じゃ。いいじゃろう。

我も退屈しておったとこじゃ。さて。

…………この女子の真名を教えよ」

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