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わたしと運勢の管理人  作者: 椎名忍・四谷伊織
妖狐襲来
16/32

妖狐襲来3

 翌日、現在時刻は午前9時を少し過ぎた頃。

 まるで一般的な会社員のような出社時間に私達はあの朱い神社の前に居た。


 とはいっても、1週間前とは違い取り壊しは進み原型は留めていないのたが。辛うじて朱色の鳥居と賽銭箱が木屑を被りながらも形を残していた。


 そして、神社を囲むように組まれた鉄骨には作業員が数人乗り、仕事を始めていた。奥に見えるクレーン車が神社の本堂を崩しているのが見える。


 「……居るね」


 鉄骨の中をじっと見ているミキが呟く。


 つられて私も見るが、景色には何も異変は無くて。


 「居るって…何が?」


 「結界が張ってあるみたいだ。まあ、弱い力だけど」


 光を纏った手のひらを鉄骨の中へいれると、これまで見えなかった薄い膜のようなものが浮かび上がる。


 「わっ…!!」

 驚きつつも自分も手を伸ばすが、何も感触は無い。


 ((弱いヤツってわけじゃあ、無さそうだな))


 ツチが低い声で警戒した様に話す。


 「こ、ここに居るのは何なの…?」


 「ふむ…運を喰らう物か…そういう存在が居ることには居るんだけど、神社をこのんで棲みかにするヤツは聞いたことないな…」


 ((まあ、中に入ってみないことにはわからんな))


 「そうだね。ツチ、衣羽を中に入れてあげて」


 ポン、とミキが私の肩に手を置いたのは一瞬で、そこにはツチが乗っていた。


 膜を溶かすようにして開けると、彼は先に入ってしまった。


 「ほら衣羽!突っ込め!」

 白蛇の低い声に身体が反応し、瞬時に閉じ始めた膜に飛び込んだ。




 澄んだ空気が流れるそこは、まるで違う世界のようだった。

 工事の作業員も、本堂を崩していたクレーン車の姿は無い。朱い鳥居と賽銭箱、半分ほど残った本堂が残っている。


 しかし、それだけではない。結界の外から見た時には無かった物が、そこには居た。


 一際目立つ朱い髪の毛。着崩した衣服からあらわになった妖艶な真っ白い肌。


 そして、自分の目でもそれが"人外の者"と分かったのは、ふわふわと揺れる触り心地の良さそうな九つの尻尾が生えているからだった。


 人間の形をしたそれは賽銭箱に座り、煙管から出る煙に包まれていた。



 朱い髪が揺れ、紅い唇から煙を吐き出したそれは、周囲の空気を動かさない程静かに振り向いた。


 黄金色の瞳が真っ直ぐこちらを見据える。


 自分の前に立つ少年も、一言も発する事は無かった。


 張り詰めたその場は互いにの力量を図っている様でもあった。


 もう一度、煙管をつかんだ指が動き、吸い口を喰わえた人外の者は深く煙を吸う。深く吸った分、吐き出した息も深かった。


 霞かけていた煙がまた濃くなった時、それはようやく言葉を漏らした。


 「……うぬは何者じゃ…?」


 気だるそうながらも、警戒しているような声色だった。


 しかし、ミキは黙ったままである。


 痺れを切らした様に舌打ちをした向こうが口を開く。


 「黙っておらんで名乗ったらどうじゃ。勝手にわれの所に入って来たのそちらであろう。ふほーしんにゅーとやらになるのだぞ」


 「軟弱な結界なんぞ張っているからだろう」

 答えたのは私の肩に居る白蛇だった。


 鋭い黄金色の視線がこちらに向く。


 恐怖で怯えた私になど気にもしていないそれは静かに煙をふかす。


 「ふむ…いつぞや見た顔じゃな」


 「なんじゃったかの」と悩むように煙管の吸い口で額を小突く。


 「ずいぶん忘れっぽくなったもんだな。そろそろ歳なんじゃねえのか?」

 皮肉を口にしたツチが私の肩からミキの肩へと移動する。



 「ああ、思い出した。土蛇つちへびか。……となると、その白いわっぱは管理人かのう」


 煙管の灰を地面に落とし、懐に仕舞う。


 「しようがない。無知な童に名乗ってやろう」


 やれやれといった様子で立ち上がると、朱い髪をかき上げながら言う。




 「我は白狐しらぎつねの"色葉いろは"。

   稲荷神いなりのかみとも呼ばれておる」



 「僕は槌之土つちのと 巳己みき


  …知っての通り、運勢の管理人だよ」






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