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わたしと運勢の管理人  作者: 椎名忍・四谷伊織
妖狐襲来
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妖狐襲来2

 それから、ミキが"異変"を確信したのは1週間程経った頃だった。


 あの時歯形があった程度で(「その程度」で済ませて良いのかは分からないが)私自身何とも無かったし。


 それに加え翌日から立て続けにミキへの依頼が増え、彼とツチの疲労は抜けず、帰宅→お昼寝→お散歩→夕飯→就寝といった単調な生活リズムが続いていた。


 全く異変に気づいていなかった訳ではない。仕事を終えて帰ってきたミキの眉間にはいつもシワが寄っていた。


 とりあえず、ここ1週間の依頼の中にとある共通点は見つけた。


・突然不運に見舞われる事。

・依頼人の周囲に運を吸収する人間や物が無い事。

・依頼人達の生活圏が全員近い事。


 「おかしい。やっぱりおかしい。何が起こってる…?」


 解決する間もないままこうして時間が経ってしまったわけだ。



 しかし今日。ようやくそのモヤモヤしたものが解消する事になる。


 「で、洋子さんもその朱い神社を見たって言ってたんだよね?」


 そう。それはつい先程の事。私はスーパーの朝の特売に行った。

 その帰り際に洋子さんに会い、ちょっとした立ち話をしたのだ。


 このオフィスに来た時の余裕の無い様子はもう微塵も無く、明るい表情の彼女は楽しそうに話した。


 「主人のお見舞いに行ってきたのよ」


 あの出来事の後、わずかではあるが右肩上がりに会社も立ち直りつつあるらしい。

 旦那さんも明日には退院なんだとか。なんだか私までホッとした。


 そして、会話をする内にあの朱い神社の話になった。病院の方向が神社のある方と同じだったからだ。


 とは言っても「綺麗ですよね」とか、「取り壊すなんて勿体ないわよね」といった他愛のない会話をしただけだが。


 「なんかね、先月に病院に行った帰りにお参りしたんだって。

その時にはもう工事は始まってて中まで入れなかったみたいなんだけど…商売繁盛の為にって…。」


 つい先程の会話だ。よく覚えてる。


 「うん。そこ、怪しいね」

 確信するように頷いた少年。


 「不自然な運の無くなり方をしてた人達はほとんどその近所だし。生活圏も近いだろうし、その神社に関わってる可能性は高いね」


 あんなに素敵な場所なのに。いまいち信じられなかった。


 綺麗な物には棘があるとか言うし…そういうものなのだろうか。


 「まあそこに洋子さんも関わってるなら、"コレ"で手がかりがつかめるかもね」


 「コレ」と言って目を向けたのは。かつて洋子さんが大切にしていた鏡。


 「これ……?」


 「うん。鏡はね、色々な物を映し出してくれるんだ。この中にある、"洋子さんの記憶"に聞いてみよう」


 助手になってから非現実的なものを色々見たが、やはり毎回信じられないし、感心するばかりだ。


 「鏡ってすごいね…」


 「まあ、こいつだからこそ出来るんだけどね。一般的な鏡じゃあ…難しいだろうね」


 確かに、この鏡は洋子さんも助けている。「なるほどな」と納得だ。


 「ツチ、前に衣羽から食べた"力の痕"残ってる?」


 ((あ?んー、多分ある))


 すると少しの間を置いてミキの手の平から米粒程の破片が飛び出た。


 「小っちゃ!」

 つい私まで驚いてしまった。


 「ちょっと時間経っちゃったからね。全部消化しちゃう前で良かった」


 ((ふんっ、よっぽど弱い力のヤツなんだろ))


 「どうかな?"弱ってる"だけかもね」


 ニヤリと笑うミキ。その表情と青い米粒をつまんだ姿が鏡に映る。


 そして溢れ出る橙色の光。この橙色の光は彼の力の源らしい。この1週間でツチが教えてくれた。


 簡単な術だとミキの力だけだ十分で、たまにツチの力を上乗せしたりして使っているらしい。

 そして、運を動かしたり、少しコツの入る術の時は術式が必要であのスケッチブックに描いているらしい。


 今回はスケッチブックは手元に無い。ということは、難しく無い術なのだろう。


 ((いや、あの鏡の力もあるから必要ねーんだよ))


 心を読まれてしまった。


 そうこう考えている内に少年は詠唱を始める。


 「朦朧もうろうたる事象、鏡面に写りしまこと、我に告知せよ」


 青い粒は鏡の表面に溶けるように消える。そしてゆらゆらと波打ちだすと、そこにとある人物が。


 「えっ…洋子さん…?」

 前に見た若い姿ではなく、現在の姿で現れた彼女。


 前回はこちら側の存在をわかっているかのように立っていたが。


 今目の前に見える彼女が見ているのは"自分"だ。身なりを整えると、赤いベルベットを被せてしまう。

 こちらから見えていた鏡の先は真っ赤になり、何も見えなくなってしまった。


 「ふむ、出掛けちゃったみたいだね」


 「え?」


「これは洋子さんの記憶だからね。衣羽から取った力の痕に反応したってことはやっぱり洋子さんも同じ物に関わってるってことだ。

 これは多分、病院に行った日かな。帰ってきた頃にまた見てみよう。それまで待たなきゃいけないし、コーヒーでも飲もうか」


 「へっ…?」


 「早く淹れてきて」


 そしてソファに座ってしまったミキ。私は戸惑いながらもキッチンへ向かった。



 ミキがいつもと変わらない姿でコーヒーを飲む横で、ソワソワとリラックスの出来ない状態でいると鏡の先が動き出した。


 「あっ…!」


 ベルベットがめくれ、その先に洋子さんの姿が。


 先程まで明るい笑顔の洋子さんを見ていたが、目の前に写った帰宅したらしい彼女の表情は疲れきっている様だった。


 そしておもむろに着替え出す。それは普通の事だが、まるでこちらが覗きをしているような背徳感に晒された。


 「みっみっ、みみ、ミキ君…!?」


 焦りつつ彼を見ると。物凄く凝視していた。


 「だっ、だっ、ダメだよミキ君…っ!」


 「ここ。」


 しかしまるで何も気にしていないように指をさす。


 「えっ?えっ?」


 「ここに、衣羽についていたのと同じ歯形」


 「えっ?…………えっ?」


 言葉の意味を理解するのが遅れた。


 「ほら」


 若干イラついた口調でもう一度指し示す。よく見ると、確かに首元には歯形が。


 「ほぼ決まりだね」


 得意気な顔をした彼は立ちあがり、着替え中の洋子さんが写る鏡に息を吹き掛ける。

 表面がまた波打つとゆらゆら揺れていつもと変わらぬ亀裂の入った姿見へと戻った。



 「明日、その朱い神社に行ってみようか」




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