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わたしと運勢の管理人  作者: 椎名忍・四谷伊織
初仕事
10/32

初仕事3

 ダンダンダンッ!ダンダンダンッ!


 ガラクタ達の掃除に差し掛かった頃、けたたましく玄関が叩かれた。


 「…なに!?」


 埃まみれになりつつ部屋から顔を覗かせると、ミキはすでに玄関へ向かっていた。もちろん、ツインテールはそのまま。

 扉に手をかけ、振り向いた彼は小さく呟いた。


 「……お客さんだよ」




 キッチンでコーヒーを淹れ、応接室に座る少年と初めて見る依頼主(お客さん)へ持っていく。


 40代くらいだろうか。その女性の髪は長く、もともと細身なのだろうが、それとは別にやつれている様だ。目の下にくまを作り落ち着かない様子である。


 「お客さん、お名前は?」


 ミキは茶色のバインダーを持ちながら口を開いた。


 「三木谷洋子みきたにようこと申します」


 「洋子さん、今日はどうしてこちらに?」


 質問をしながらメモをとっている。カルテのようなものだろうか。


 ふと、部屋を見渡すとソファの後ろにある棚に沢山の用紙が乱雑に詰まっていた。

 もしかしたら、お客さん達のカルテなのかもしれない。はれにしても、やはりぐちゃぐちゃだ。後で整理しておこう。

 と、他愛の無いことを思考していると。


 「あっ、あの!さっきから質問をされますけど…!!貴方の様な子供ではなく、きちんと相談を聞いてくださる方を出してください!!」


 "こんな姿だから最初はみんな信じてくれないんだけどね"

 つい昨日、シニカルな笑顔で話した言葉を思い出す。


 「ご安心ください。僕がここのあるじです。洋子さん、どうやら旦那さんがご病気されてから良いことが起こって無いようですね?」


 「なっ…なんでそれを……」


 三木谷さんだけでなく、私まで驚いた。彼女はまだそこまで言っていない。


 「もっと詳しくお聞かせ願えませんか?洋子さん」


 得意気に笑う彼に、半信半疑ながらも静かに座り直した依頼主は言葉を続けた。


 「……仰ってる通りです。小さいながらも会社を経営しておりまして。しかし今、主人が病気をして入院をしてしまい、私が代わりをつとめているのです。

主人は身体が弱いので、こういったことは初めてではないのですが…

……今回は…どうしてか悪い事ばかり起こるのです…」


 彼女は少し俯く。


 「…いえ…思えばその前からだったのかもしれません…先月も主人が体調を崩したばかりで…また今月もなんて…こんなに頻繁に……

 そして、それから経営もうまくいかず…悪徳な物に掛かってしまったり…従業員に資金を盗まれたり…」


 悲痛な話にミキは静かに耳を傾けていた。そして、一通り聞いた後、彼は口を開く。


 「……そうだなあ…洋子さんの誕生日や出身地でてみたけど、運気の下がる年でも無いみたいだし…旦那さんもその気はないな……」


 書き込んでいた用紙に指をあてがい、指先との間にはあの橙色の光が漏れていた。


 ミキの診断に顔を上げた三木谷さんの顔はそんな魔法のような光景に、信じられないというような顔をしていた。


 「ほ、他にもいろいろな占い師さん達に見てもらったんです…!……でもほとんとが…今が悪いだけです…って…」


 どうやら、ミキの言う事が他とはまるで正反対だったようだ。


 「…でも運が無いのは本当なようだね。特に洋子さん、貴女の運が殆ど無いみたいだ。今の洋子さんが持つ最低限の運は旦那さんの物みたいだ」


 「……えっ?」


訳のわからないと言った様な顔をした三木谷さんと、難しそうな顔をしたミキ。当然、私も理解は出来ていない。


 「洋子さんの周囲を実際に見たいな。えっと…」


 チラリと後ろを振り向き、電話の脇にある大きな柱時計を見た。


 「10時半…か。ギリギリだなあ。今すぐ出よう」


 「えっ?あ、あの…」


 「洋子さん、普段関わる頻度の高い人物は?」


 「私がお仕事するときは自宅なので…秘書と、お手伝いさんくらいですけど…」


 「じゃあ、自宅に一緒に行こう。衣羽、洋子さんのジャケットとってあげて」


 バタバタと動き出した少年に私と三木谷さんは困惑しながらも着いていくのがやっとだった。


 (わ、私がここに来たときと似てる……)


 唐突に動き出す彼に、十分に説明されないまま引っ張られる私達。

 お客さんにはいつもこうなのだろうか。なんだか心配になってしまった。




 「み、三木谷さん、なんだかすいません…」


 ジャケットを手渡すと、細い腕が目についた。

 苦労しているようだ。ほんの少し前の自分と重なり何か声を掛けなければと思った。


 「か、彼はあんなんですけど、ちゃんと本物なんで…」


 精一杯の励ましのつもりである。


 「あの…あなたは…」


 チラリとHEBIの顔と私の顔を交互に見られた。


 「わ、私は助手の衣羽ですっ!」

 「助手さん…」

 「き、昨日の夜からで…まだ私もよく分かってないんですけど…」


 「何やってんの?早く行くよ!時間無いんだから!」


 あの大きなパーカーを羽織った彼が私達を急かす。


 「い、行きましょ、三木谷さん!」



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