第七章 二人の女王候補と毒 その一
――二人目の女王候補。
その知らせに宮殿は震撼した。
ルイーゼが女王だと思っていたのもあるが、その二人目の候補というのが藍玉の騎士が連れてきた幼子であったからだ。
容姿においても力に関してもルイーゼが勝っている事実は否めない。大半の者は、エルファーナに見向きもしなかった。
しかし、エルファーナを追い出そうと画策していた連中には、よい防壁となったようで、エルファーナが小媛の間を使っていることに異を唱える者はいなくなった。
エルファーナを司雅宮へ押す声もあったが、女官三人は頑強に拒んだ。世話も三人だけとし、エルファーナに人を近寄らせなかった。
そのため、エルファーナの日々は、女王候補となっても表面上は静かであった。
一方、心中が穏やかでないのはルイーゼのほうだ。
八聖騎士が次々と見舞ってくれても苛立ちは収まらなかった。
「わたくしがあんな小娘に負けるわけないわ……」
人払いをした室内は静かであった。
ルイーゼの呟きがことのほか大きく広がった。
毒を体内に含み、数日の安静を強いられているルイーゼであったが、暢気に休んでいる場合ではなかった。
ぎりっと唇を噛みしめたルイーゼは、もう一人の厄介な敵を思い出して剣呑な顔つきになった。
八聖騎士が筆頭となって、毒を入れた犯人を捜索しているようだが、確固たる証拠が出てこないようだ。葡萄酒を所望したのはルイーゼであったが、それを持ってきた侍女は騒動の後自害した。
彼女が犯人と思われたが、裏でだれかが糸を引いているのではないかというのが一般的な見方だ。
その侍女は、遠縁の親戚を頼って宮仕えになったらしい。もちろん、その親戚は直ちに捕らえられ、疑いが晴れるまで牢獄に繋がれている。
彼は関与を否定していて、八聖騎士も収穫を得ることはできなかったようだ。
「ドゥルガルに決まってるわ」
自分を葬って得をするのは朱玲次官しかいないではないか。
六大臣十二官は、ルイーゼのしもべであったし、八聖騎士はまだ態度が頑なであるものの、その内の何人かとは懇意にしている。
女王となれば、否応なしに彼らは自分の下につくのだから、別段焦らずとも大丈夫だろう。
問題は、表だってルイーゼを批判している朱玲次官だけだ。新たな候補が現れた以上、彼はエルファーナの味方につくかもしれない。
もちろん、彼がエルファーナを押したところで、事態が好転するわけでもない。
ルイーゼのように癒しの力をまだ示していないからだ。
証をと求める声を無視し、沈黙を守っている。六大臣の一人から聞いた話では、その力があったのは昔のことで、アザと共に消失したのだといっていた。ならばいまさらと思ったが、リゼが背後で目を光らせている以上、だれも批判の声をあげることはできなかっただろう。
昔のこととはいえ、女王候補の資格を有していた事実は変わらないのだから。
「忌々しい子……!」
ルイーゼは会ったときからエルファーナのことが大嫌いであった。
リゼに愛され、大切にされている少女。
邪気のないあの笑顔。
思い出すだけでもむかむかする。
「そうだわ」
ルイーゼは、いいことを思いついたように、にやっと唇の端を持ち上げた。