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take:3 やはり俺の妹は可愛い

『アスカ・レイピア・ライトニング』


 朝に出会った少女の本名である。

 ロングに伸ばされた金髪に、サファイアを彷彿(ほうふつ)とさせるような(あお)い瞳、それらに()えるように白い肌は透き通り、まるで存在自体が宝石のような少女である。

 端的に言うならば、彼女は美少女なのだ。可愛いは正義なので、恐らく彼女も正義だ。

 もしクラスにこんな美少女がいたら、(さか)りな男子共は、さぞ大盛り上がりになること間違いないだろう。俺も恐らくはその一派の一員となり、速攻告白して、そんでフラれるのだと思う。……結局フラれるのか。

 ようは、その位に彼女は美少女なのだ。

 出会った瞬間、一目惚れしてもおかしくないほどに。


 だが俺が、彼女に恋愛めいた感情をぶつけることなど、全くもって皆無(かいむ)であった。

 一時の出会いのみならず、彼女とはおよそ2週間程の時間を共にしたのに、俺とアスカの関係が近づくことは無かった。

 世界を救うべくして、その志を共に、迫り来る化け物に剣を振るいあった戦友であっても、そこに愛は芽生えなかったのだ。


 なぜならそれは、俺と彼女との間に絶対的な、絶大的な差異(さい)が生じていたからである。

 俺と違って、彼女はやはりお姫様なのだ。

 国内カーストにおいて、ほぼ最高位に位置する『姫』という地位。この世に生をなした瞬間から、国民に愛され、守られ、仰がれ、その人生は安泰(あんたい)を約束される。

 近くにいたらどうしたって引け目を感じてしまうし、容易には近づき(がた)い。


 俺は結局のところ、ただの高校生なのだ。

 たとえ世界を救って勇者だのなんだの呼ばれたところで、現実に立ち返ってみれば、何の取り()もない超絶一般人に過ぎない。

 だから、俺が彼女にそんな勘違いじみた感情を向けることはなかった。

 仮に、もし多少なりの恋愛感情が発生したのだとしても、そんな感情は果てしなく無意味で、彼女を前にしては、まるで砂上の楼閣(ろうかく)の如く崩れ去ってしまうことだろう。

 彼女はあくまでお姫様であり、俺はあくまで平凡な一男子高校生に過ぎないのだ。このカーストの差は、俺が彼女の世界を何度救おうとも、きっと変わらない。

 何をしたところで俺は永遠に一般人だろうし、彼女は永遠に一国の姫君なのだろう。

 だから、俺とアスカの人生が(まじ)わることなんて、きっとないのだ。並行線の人生が、お互いどれだけ伸びていったとしても、交わる事なんて決してあり得ないのだから。

 まあそんなことなんて、(いた)ってどうでもいいことなのかもしれないが。


 ……さておき、一国の姫君(ひめぎみ)たるお方が、こんな物騒(ぶっそう)な国、JAPANに(ひと)り身でやってきて大丈夫なのだろうか?しかも交通死亡事故件数第1位という()(めい)()な町NAGOYAに……。

 通称名古屋走りと呼ばれるワイルドだみゃーな走りを()り広げるため、町中は中々危険たっぷりなのだ。1度外に出たら帰ってこられるかどうか分からないという、日常がもはやサバイバルまである。

 しかし、魅力も負けじと沢山あるのが名古屋という町である。モーニングがあるし、味噌カツは美味いし、ココイチの店舗数だって日本一なのだ!名古屋万歳!万歳!

 ……っていや、まあ今は名古屋の宣伝してる場合じゃねえな。


 んでアスカさんは……っと、アレ?アスカさん?靴()いたままじゃねそれ?アメリカンスタイルでも採用してるのかしらん?

 ……そう、(とう)のアスカさんはというと、なんということか、土足で廊下をドシドシと絶賛行進中なのであった。……STOP!!STOPアスカさん!!タイム!タイム!バリア!

 俺がグイと手で押してその歩みを制止すると、アスカは(いぶか)しげな視線を送ってくる。


「……どうかしたんですか?」


 彼女は悪びれた様子もなく、こてんと首を(かし)げてみせる。うん、……まあそうだよね。悪気があったらぶっ飛ばしちゃうよ。


「あー……アスカ、くつ脱げくつ」


「はぅっ?……あぁご、ごめんなさい癖で」


 アスカさんはさぞ慌てた御様子で、ドタドタと廊下を走りつつ玄関に向かいました。う○こ踏んでないといいなあと思いました。


 ……しっかし脱ぐの面倒くさそうなブーツ履いてんなこいつ。何ブーツっていうんだろうなそれ。……あれか、神秘のブーツとか、なんかそんな感じだな。防御力ものっそい高そうだわ。挙げ句の果てにはMPまで上がっちゃいそう。


 その後、もろもろの苦労の末、何とか神秘のブーツを脱ぎきった彼女は、ぺたぺたと覚束(おぼつか)ない足取りでこちらにやってくる。


「いやーすみません……お恥ずかしい所を」


「……気にすんな。こっちがリビングな」


 俺はそう言って、引き戸をガラガラと引き開ける。やはり、我が家で会議するとなればリビングが妥当(だとう)なとこだよな。

 自分の部屋でも全然良いのだけど、ほら、さすがに年頃の女の子を部屋に連れ込むのはね。ちょっとアレだよね。


 ……というわけで、まあ良い具合に論破して、サクッと帰ってもらうとするか。

 表向きでは交渉なんて言ったものの、実際俺は、再びあの世界に()り出す気など微塵(みじん)も持ち合わせていないのだ。なので、これから行われる会議は、恐らく交渉とは呼べない。

 一方的にこの場を収めるためだけの、エゴに(ゆが)んだ処世術(しょせいじゅつ)でしかないのだろう。

 彼女が、仕方ないと納得してくれるような高度な言い訳をならべてしまえば、それでお仕事は終わりなのである。まあ、上手くいけば良いんですけどねえ……。

 とりあえず俺は、リビングの中につかつかと入っていくことに。


 して、俺の目に真っ先に飛び込んできたのは、ソファーに寝転がりながら、すやすやぐっすりなマイリトルシスター飾音ちゃんの姿なのであった!

 ……くっそ寝顔まで可愛いな!さすがは俺の妹だぜ!……じゃなくて、そうじゃない。

 こいつにアスカをどう紹介すればいい?いや、というかそもそも紹介するべきなのか?

 とはいえ、何の説明もなしにこの場で会議を始めるのは、あまりにもきまりが悪い。何らかの対策なりを打たねばならないのは自明であろう。


 以前に俺が異世界トリップぅ☆をかました時は、確かアスカのことは全く話さなかったはずだ。「旅に出ます探さないでください。あ、後だいだい2週間位で帰ってくるので、学校には上手いこと言っといて下さい」の置き手紙だけで乗り切ったからな……。我ながら理解のある家族と学校をもったものだと思ったよ、まったく……愛してるぜ。


 今からおよそ1年前、高校に入学したばかりの俺は、実際にそう乗り切ったのだ。

 とはいえ今回は状況が違う。それは俺にまるっきり異世界に行くつもりがないからだ。

 ので、なおさら必然的かつ決定的に、アスカの本性を紹介する必要がなくなる。たとえ真実を打ち明けたところで、信じてくれる訳がないし、信じてもらったところでどうということもない。

 よって、ここでは上手いことはぐらかしつつ、(だま)しぼかしつつやりくりし、()(ほう)(さく)でこの場を収めてしまうのが得策だろう。まさに俺の得意分野である。

 その場しのぎとか、俺の独壇場(どくだんじょう)すぎだ。()れの分野においては、俺に勝る者など誰もないと自負しているまでである。

 とりあえず俺は、飾音が眠っているソファーに向かった。


「……おい、起きろ。……うぇいくあっぷだ飾音ちゃん」


 声をかけながら、ぐりぐりと飾音を揺すってみるが、まるで反応がない。ただのしかばねのようだ。

 ……いや、やめてくれ。起きろ。

 さらにおらおらと激しく揺すっていると、うぬぅっ……とご()(げん)(なな)めの声が聞こえてきた。やっとこさおめざのようである。

 飾音は寝惚(ねぼ)(まなこ)をこすりながら、うにゅうにゅぶつくさと何かを喋り出した。


「……ん?どうしたのお兄ちゃん?……もしかして…………夜這(よば)い?」


 ……よばい……よばい。

 ……そうか、俺は夜這いをしていたんだったな!本来の目的を忘れるなぞ俺らしくもないぞ。らしくないらしくない!

 ……早速、くねくねと指先をうねらせながら、妹の(つや)やかな肌に手を伸ば…………ハッ!いかん!俺は一体全体何をしようとしているんだ!

 バレたら速攻家族会議からの(むら)(はち)()からの斬首刑(ざんしゅけい)がまっているんだぞ!しっかりしろ、自分を持て俺!


 ……ふぅ、危ねえ。危うく俺の中で、新しい何かが目覚めてしまうところだったぜ。

 しかし、そこはさすが、俺の優秀な理性たちが、何とか俺の社会的生命をつなぎとめてくれたようだ。素晴らしいリスクヘッジをありがとう俺の理性。

 俺は伸ばしかけた手を引き戻し、彼女を()めつけながらこう言う。


「お前みたいな貧相な体つきに夜這いするわけねえだろうが。つけあがるな若僧(わかぞう)


「……なっ!お兄ちゃん最低すぎ!女性に対しての言葉遣いとか、もう少し考えたらどうなの!?そんなんだからいつまで()っても彼女の1人もできないんだよ!」


 彼女はソファーからガバッと起き上がり、ぷんすかと捲し立てた。

 ちっ、余計なお世話だぜ……。

 心に若干の傷を負いながらも、彼女のセリフを再度反芻(はんすう)してみる。

 すると、どこか今の状況を打破する、ヒントめいたものを感じた。

 ……もしかしたら、こいつは使えるかもしれないぞ。思いついたアイデアに、少しニヒルな笑みが浮かんでしまう。


 とりあえず冷静に立ち返った俺は、ぱっぱと本題に入っていくことにした。

 まずは、彼女にとって"謎のお客さん"だった人物を家に招き入れたという事実を、認識させなければならない。


 俺は早速、引き戸に隠れつつ、所在(しょざい)無さげに立っているアスカを、こいこいと手招きしてソファー前まで呼び寄せることにした。

 彼女はどこかビクつきながらも、なんとか俺の隣までとことことやって来る。

 対して飾音はといえば、そんな彼女を、キョトンとした様子で眺めていた。

 そして俺は、困惑しているアスカの肩にガシッと手を回し、こう言い放つのであった。


「……飾音よく聞けよ。……この女の子は…………俺の彼女だ!」


「……………………ほええええええっ!?」


 我が家のリビングには、2つの悲鳴絶叫が鳴り響くのであった。……つづく。




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