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魔王が復活しそうなので慣例に従って勇者を召喚したらチートすぎた上に個性が強かった  作者:


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蘭雪の場合

 薄暗く乾燥した空気が漂う中を黒髪の女性が歩いていた。周囲は女性の背よりはるかに高い本棚が囲んでいる。


 無造作に歩いていく女性の後ろをフェリクスと神官長がついていく。


 召喚の儀の後、神官長は魔王の封印のことを女性に説明をして協力を依頼した。内心、断られると考えていた神官長だったが、女性の反応は予想外のものだった。ある条件と引換に石碑の封印に協力するというのだ。

 その条件を断ることが出来るはずもない神官長は渋々、承諾して女性にフェリクスとともに、この街の石碑の封印をしてもらった。


 そして現在。


 石碑の封印で多量の魔力を消費したはずの女性は休むことなく神殿の中にある図書館の散策していた。


 無造作に歩いていた女性がピタリと足を止める。

 粉々にされたプライドをどうにか立て直したフェリクスが声をかけた。


「気になる本がありましたか?」


 女性はフェリクスの問いには答えずに足元を見た。床を見つめる女性の鋭い視線に神官長の表情が固まる。


 女性は振り返って神官長を見ると床を指差した。


「開けて」


 その言葉に神官長の額から汗が流れる。


「そう言われましても、そこはただの床でして……」


 女性が神官長に鋭い視線を向ける。


「この街の石碑の封印に協力した条件、忘れたとは言わせないわよ。この国にある全ての書物を読める特権。それには当然、秘蔵書物も含まれているわ」


「し……しかし、そこは王の許可がないと開けられませんので……」


「じゃあ、すぐに許可を取ってきて」


「そ……それは……」


 戸惑う神官長に女性は黒い瞳を細くした。それだけで神官長が黙り込む。

 そこにフェリクスが悠然と会話に入った。


「私が後で王に直接説明をしましょう。どうぞ、(ラン)(シュエ)様」


 フェリクスがあっさりと魔法で床の石を動かす。その先には地下へと続く石階段があった。


「暗いわね」


 蘭雪と呼ばれた女性は手のひらの上に光玉を出して足元を照らしながら階段を降りて行った。

 フェリクスは蘭雪が呪文も魔法陣も使用せずに魔法を発動して光玉を出したことに驚いたが、すぐに後を追いかけた。


 しかし、神官長はすぐには追いかけずに、その場で右往左往していた。神官長といえども王の許可なく入れない隠し部屋のため、戸惑っていたのだ。だが、二人の姿が見えなくなると意を決したように階段を降りていった。


 地下は小部屋になっており本棚が数列あるだけだった。

 蘭雪はその本棚の中から適当に本を取り出してはパラパラとページをめくって再び本棚に戻すという作業を繰り返した。そして、たまに気になる本があると、そのまま後ろに控えているフェリクスに持たせていた。


「この世界の字が読めるのですか?」


 言葉は召喚の儀で使用した魔法により自動でこの世界の言葉に変換されるが文字はそうはいかない。だが蘭雪は文字を読んで本の内容を吟味しているように見える。


 フェリクスの質問に蘭雪は平然と答えた。


「私の頭の中には多数の国の言語と文字の知識が入っているの。その中の一つに似ているから読めるわ」


「素晴らしいですね」


 フェリクスが数々の女性を虜にしてきた笑顔で褒める。

 だが蘭雪は興味なさそうにフェリクスの横を素通りして階段を上がっていった。その姿にフェリクスが苦笑いを浮かべる。


「つれないですね。そこがまた良いのですが」


 そこに、この一日で残り少ない髪がますます減り、確実にやつれた神官長が呟く。


「とんでもない勇者様ですよ」


「確かに前代未聞の行動ばかりですが、封印には協力して下さいましたから。魔力も強いですし、これなら魔王の封印も安心して出来ます。むしろ、もう一つの計画のほうが大変です」


 神官長は首を振りながらため息を吐いた。


「その計画を実行しようとされているフェリクス殿には頭が下がります。ただ気をつけて下さい。勇者様は頭が良すぎます。勇者様が選ばれた本は王と大神官の許可がないと閲覧出来ない書物ばかりです。私でさえ閲覧禁止のものが含まれていますから」


 フェリクスは自分が抱えている数冊の本に視線を落とした。本をのぞき見たいという好奇心がうずいたところで階段の上から声が響いた。


「何しているの?それで終わりじゃないんだから、さっさとしてよ」


「すぐに参ります」


 フェリクスは階段を上がりながら神官長に言った。


「大事の前の小事です。王にはうまく説明しておきますよ」


「そうして下さい。私は今から辞表を書きますので」


 その言葉が冗談ではないことは神官長の表情を見れば明らかだった。


 その後も蘭雪はいろんな分野の本を選別して中を軽く確認してはフェリクスに渡していった。最終的には机の上に本の山ができあがり、読む本を置く場所がない状態になった。


「じゃあ、私は本を読むから食事が出来たら呼んで」


 そう言うと蘭雪は本が山積みにされた机の前に置かれた椅子に腰を下ろした。そして長い美脚を組むと、その上に本を置いてパラパラとページをめくり始めた。文字を読むにしては速く、だが眺めているにしては少し遅いスピードで次々とページをめくっていく。


 呆気にとられている二人に蘭雪は思い出したように顔を上げて言った。


「あと、読み終わった本を置く台をここに準備しといて。今は慣れていないから、ゆっくり読んでいるけど、慣れたらどんどん読んでいくから」


 それだけ言うと蘭雪は返事を待たずに再び本に視線を落とした。

 これ以上、指示を出す様子がない蘭雪を見て、神官長はこれ幸いと頷きながら言った。


「わかりました。フェリクス殿、我々がいては気が散るでしょう。邪魔をしてはいけませんので、下がらせていただきましょう」


 そう言うと同時に神官長は留まろうとしているフェリクスを引きずるようにして図書館から出て行った。



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