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魔王が復活しそうなので慣例に従って勇者を召喚したらチートすぎた上に個性が強かった  作者:


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王都シャブラの勇者の場合

 王都シャブラの神殿にいた人間はすべて凍りついていた。

 ここは王都ということもあり神官や魔導師だけでなく、勇者を一目見たいと有力貴族も召喚の儀を見学に来ていた。


 だが、その人たちは現在、猛烈に後悔していた。勇者の召喚を見学に来ただけだったはずなのだが、何故か自分の命の危機に直面しているのだ。少しでも動けば殺される、と本能で感じとれるほどの威圧感が周囲を包んでいる。


 その中心人物であり魔法陣の中で静かに立っていた青年が口を開いた。


「召喚したヤツと責任者、出てこい」


 その言葉に全員の視線が黙って王に向けられる。王に威厳を繕う余裕などなく、震えそうになる体をどうにか抑え義務感から声を出した。


「勇者よ、話を聞いてくれないか?」


 その言葉に青年は微動だにすることなく言った。


「貴様が責任者か?」


 青年から向けられた殺気に王の体が無意識に仰け反る。


「王をお守りしろ!」


 近衛兵隊長の言葉で鎧を着た騎士が王と青年の間に入る。整然と一列に並び青年を前に剣を構えるが誰もが逃げ腰なことは一目瞭然だった。


「ひるむな!相手は丸腰だぞ!」


 隊長の叱責が飛ぶ。たしかに青年は丸腰だった。それどころか上半身は裸だ。適度に鍛えられ引きしまった筋肉。顔は頭からタオルを被っているために見えず、髪の毛から雫がたれている。このような姿で武器もなにも持っていないのに誰もがこの青年には勝てないと感じていた。


 騎士が少しずつ青年を囲んでいると、リュネットの声が響いた。


「お待ち下さい!」


 リュネットは可愛らしい桃色のドレスを翻しながら王の前に進み出た。恐怖と緊張の視線が集まる中、リュネットは頭を下げて王に進言した。


「勇者様はこのお姿を見る限り、水浴びをされていたご様子。そんな時にこのような所へ召喚されたのですから、お怒りになるのはご尤もだと思います」


 そこまで言うと、リュネットは振り返って青年に頭を下げた。


「勇者様、我々のご無礼をお許し下さい。そして、どうかお話だけでも聞いていただけませんでしょうか?」


 可憐な一輪の花のようなリュネットが懇願する姿に凍りついていた空気が動いた。青年から殺気が薄れ、頭に被っていたタオルを取ったのだ。


「少しは話ができるヤツがいるようだな」


 その声は相変わらず冷たいが、タオルの陰から現れた顔を見て全ての人が息を飲んだ。


 刀のように鋭い銀髪と、宝石のように輝く翡翠の瞳。そして彫刻のように整った顔立ち。見事な造形美と思える青年の姿に先ほどまで怯えていたことを忘れて魅入ってしまう。


 二十歳前ぐらいの青年は頬を赤くしているリュネットを一瞥すると、濡れた前髪をかきあげながら王を見た。


「服と別の部屋を準備しろ」


「部屋……とは?」


 真意がわからず困惑している王に青年は視線だけで軽く周囲を見た。


「話をするだけなら、こんなに広い場所と人はいらないだろ。それに俺は見世物ではない」


 再び放たれた殺気に王が慌てて指示を出す。


「は、早く勇者を客間へ案内しろ。服も急いで準備するのだ」


 青年はタオルを首にかけると、まだ怯えが残る表情で案内を申し出た宰相の後ろを歩いて神殿から出て行った。その後ろ姿に男性陣からは安堵の、女性陣からは恍惚のため息がもれる。


 ここに超不機嫌な勇者が召喚されたのだった。



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