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魔王が復活しそうなので慣例に従って勇者を召喚したらチートすぎた上に個性が強かった  作者:


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勇者が元の世界に還る場合

 楽しそうに傍観していた蘭雪が何かに気が付いてオーブに声をかけた。


「いいじゃない。なかなか面白いものが見られたわ。でも、そろそろ時間切れね。還らないと、うるさいのが来そうだわ」


 蘭雪がポケットから取り出した小さな板をオーブに見せる。


「あぁ、もう終わったのか。意外と早かったな。紫依、朱羅、そろそろ還るぞ。で、ないと面倒な始末書を書かされるぞ」


「わかった」


 オーブのかけ声で朱羅たちが一箇所に集まった。


 その様子に王が慌てて手を伸ばして懇願する。


「勇者よ、この世界に留まってくれぬか?望むものはなんでもやる。だから、どうか……」


 すがりつくような言葉を蘭雪が妖艶な微笑みで斬った。


「その古い考え方を改めなさい。むしろレンツォのところで根性を入れ直したほうがいいかもね」


 そう言ってレンツォに視線を移す。


「とっととこの国を占領したほうが、この国の民のためかもよ」


「その必要がありそうならするさ。お家騒動に巻き込んで悪かったな」


「最初はつまらなかったけど最後は楽しめたわ。でも二度と喚ばないように」


「あぁ」


 レンツォがしっかりと頷く。


 その隣にオレールが立って紫依に声をかけた。


「いつから私がこの国の人間でないと気づいていましたか?」


 紫依が少し首を傾げて悩む。


「いつからでしょうか……お話をしていて、みなさんは我が国というのにオレールさんだけ、この国と一歩引いた言い方をされていたのが気になっていました。ですが、そのことに気づいた頃から風が私を避けるようになって、なかなか本当のことがわかりませんでした」


 その言葉に蘭雪と朱羅が納得したように頷いた。


「だから魔王の封印に行くときに翼を出したのね。風を使って飛べないから」


「いつもなら風が道しるべをして道に迷うことなどないのに、それで道に迷って闘技場に来るのか遅れたのか」


 二人の言葉に紫依が微笑む。


「オレールさんとリュネットさんはとても風に好かれていますから」


 オレールとリュネットが目を丸くする。


「風に?」


「はい。とても強い風の守護が見えます」


 紫依がカリーナを見るとニッコリと微笑み返された。


「二人とも私がとっておきの守護魔法をかけといたから」


「ですから、お二人を見たときに兄妹であることと、この国の人ではないことに気づきました」


 紫依の言葉にオレールが跪き頭を下げた。


「勇者様を騙すようなことをして申し訳ございませんでした」


「お気になさらないで下さい」


 紫依はオレールを起こすために手を出した。


「二つの故郷を守って下さい」


 オレールが顔を上げると紫依が微笑んでいた。


 いつもの人形のような形だけの微笑みではなく、人として感情がこもった温もりのある微笑み。心のどこかで、この微笑みを求めていた。


 オレールは差し出されていた手を掴むと、自然と口を動かしていた。


「ご一緒に見ていただけませんか?」


「え?」


「私が生まれた街にご一緒に来ていただけませんか?」


 オレールの真剣な眼差しに紫依は人形のように軽く微笑んだ。


「次にこの世界に来た時に」


 その返事にオレールは立ち上がって少しだけ微笑んだ。


「お待ちしております」


 そう言って滑らすように手を話した。


 四人の足元に転移魔法の魔法陣が現れる。


 そこにリュネットが慌てて駆けよってきた。


「朱羅様!いろいろご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」


 頭を下げるリュネットに朱羅は軽く言った。


「気にするな。これから大変だろうが頑張れ」


 リュネットが母親譲りの大きな緑の瞳を濡らしながら顔を上げて微笑む。


「ありがとうございます」


 その隣にはフェリクスがリュネットを支えるように立っていた。


 カミーユが中性的な笑顔で声をかける。


「みなさん、お元気で」


「あぁ。おまえらも元気でな。じゃあ還るぞ」


 オーブの声で足元の魔法陣が輝き出す。


 そこで蘭雪が思い出したように言った。


「それと朗報よ。魔王はこの世界からいなくなったわ」


「は?」


 一同が言葉の意味を理解する前にオーブが補足説明をした。


「あの黒い球体はなくなったってことだ。嘘だと思うなら、魔王の城に確認に行ってみたらいい。じゃあな」


 言い終わると同時に四人は眩しい光に包まれて姿を消した。


 一同が立ちすくむ中、いち早く復活したレンツォがサミルに声をかける。


「今の言葉は本当か?」


「至急、確認をとらせます」


 サミルが通信機を取り出して連絡をとっている。


 王も我に返り周囲にいる家臣に指示を出した。


「何をしている!?早急に魔王の城へ確認をさせに行け!」


 周囲が慌ただしくなる中、カリーナが優しくオレールの頭を撫でた。


「なにをするのですか?」


 オレールが慌ててカリーナの手を振り払う。


 カリーナはゆっくり手を下げると同情するような目でオレールを見ながら言った。


「頑張ってプロポーズしたのに振られちゃったわね」


 その言葉にオレールの顔が真っ赤になる。そこにカミーユが食いついてきた。


「あれはプロポーズの言葉だったのですか!?」


「そうよ。アルガ・ロンガ国では自分の故郷を一緒に見に行くことは一生を一緒に添い遂げるってことになるの。でも、その意味を知らない相手に使うのはちょっと卑怯だったわね。さすが鬼畜の息子だわ」


 反論できないオレールにカミーユがとどめをさす。


「これで紫依が一緒に故郷を見に行っていたら強制結婚ですか。親子二代で鬼畜の所業ですね」


 カミーユの言葉にカリーナが嬉しそうに手を叩く。


「あら、あなたとは話が合いそうだわ。名前は?」


「カミーユ・ビオです」


「カミーユ。いいわね、あなた。今から私に仕えなさい」


 そう言うとカリーナはカミーユを指差したままレンツォに向かって叫んだ。


「レンツォ、これ今から私のね」


 カリーナの叫びにレンツォが頭を抱える。


「人間をこれとか言うな!物じゃないんだから、そんなに簡単に自分のものに出来ないと何度言ったらわかるんだ!?本人の意思もちゃんと確認しろ!」


「あら、いいじゃない。本人だって嫌がってないのだから」


「なら雇い主にも確認しろ。こっちはこっちで忙しいんだ」


「ついでに交渉してよ。魔王がいなくなったのなら、新しい交渉事が出てくるでしょ?」


 そう言いながらカリーナがレンツォのところに歩いていく。


 置いてきぼりにされた当人にオレールが声をかける。


「いいのか?勝手に人身売買されているぞ」


「いいんじゃないですか?アルガ・ロンガ国を見てみたいですし。そういえばオレールの故郷はどんなところですか?」


 オレールは空を見上げて言った。


「海しかない大きな港街だ。アルガ・ロンガ国の首都は海に面している」


「バルダの街を大きくしたような感じですか?」


「そんな感じだ」


 そこに魔王の消失を確認したという連絡が入り、周囲が一層騒がしくなる。


 オレールと同じようにカミーユも空を見上げた。


「これからが大変ですね」


「どうにかなるだろう」


「そうですね」


 二人の視線の先には役目を終えて空高く上昇していく魔王の城があった。



もう少し続きます。

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