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魔王が復活しそうなので慣例に従って勇者を召喚したらチートすぎた上に個性が強かった  作者:


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王妃が登場した場合

ストレートな表現の下ネタ?があります。

 カミーユたちがオーブから会談の前に応接室であった話を聞きながら湖に来ると、そこには一本の道が出来ていた。


「本当に一直線だな」


 オーブが感心しながら言ったその先には幅三メートルほどの道があった。


 それは湖の先に見える山脈を頂上から真っ二つに切り裂いており、巨人が悪戯で山を削り取ったようにも見える。


「巨大な剣を振り下ろして出来たような道ですね」


 紫依の感想に先に湖に来ていたレンツォが頷く。


「いや、実際にそうだ。魔力で作った剣を振り下ろして一直線にここまで道を作ったんだ。あとは、その道の上で短距離の転移魔法を繰り返しながらウマを飛ばして来るはず……ほら、姿が見えた」


 レンツォが指差した先には動く小さなものが見えた。


 遠すぎてよく見えず、全員が目を凝らしていると、それはものすごいスピードで山脈の間に出来た崖の隙間を通り抜け、目視出来るようになった。

 それはウマにまたがり茶色の髪と深緑色のドレスの裾をはためかせながら猛スピードでこちらに向かっている。


 顔は布で覆い隠しているため見えないが、スピードを落とすことなくやってきたそれは湖を飛び越えてレンツォの前に突っ込んできた。


「危ない!」


 叫び声が上がる中、レンツォは平然と両手を空に掲げた。


 その姿に操縦していた女性はウマを捨ててレンツォの腕の中に飛び込む。

 捨てられたウマはそのまま一行の頭上を飛び越えて誰もいない地面に突き刺さった。


 だが、そんなことはなかったかのように女性はレンツォの腕の中で顔を覆っていた布を取り去り怒り顔を見せた。


「まったく、シャブラ国に行くなら私も連れて行きなさいよ」


 破天荒な行動と勝気な雰囲気に消されているが、女性の顔立ちは整っており、黙って大人しくしていれば一国の王妃として象徴になれるぐらいの美しさを持っている。

 外見は三十歳後半ぐらいに見えるが、それにしては肌が艶やかで新緑のように輝く大きな緑の瞳が印象的だ。


 レンツォは風でボサボサになった女性の茶色の髪を愛おしそうに撫でながら弁解した。


「カリーナが大人しくするなら連れて来たさ」


 カリーナと呼ばれた女性が口を尖らせて可愛らしく反論する。


「あら、私はいつも大人しいわよ」


「どこかだ!」


 レンツォが叫びながら一直線に出来た道を指差す。


「いくら早いからって、どこでも一直線の道を作るのは止めろと言っただろ」


「あら、進軍しやすいように山を飛ばして大きな道にしても良かったんだけど、環境のことを考えて小さな道にしたのよ」


 山一つ吹き飛ばせば、そこから生じる環境の変化や生態系の崩れは想像以上になる。その問題を考えれば、これぐらいで済んだのは良いほうだろう。


 だが、そんなことに気を回すなら、もっと他のことに気を配って欲しかった。


 例えば、ここに来るまでに破壊したであろう罠とその周囲にいる兵たちや備品や城など、だ。


 レンツォはいろいろと痛む頭を押さえながら言った。


「環境のことを考えてくれてありがとう」


「どういたしまして」


 得意気に威張るカリーナを見て蘭雪が笑った。


「話通りの面白そうな人ね」


「いろいろ規格外みたいだけどな。で、なんで道を作ってまで、ここに来たんだ?」


 オーブの質問にカリーナがレンツォから離れた。


「もちろん自分の子どもに会いに来たのよ。ずっと我慢していたのだから」


 そう言うとカリーナはオレールとリュネットを見て微笑んだ。


「あぁ、こんなに大きくなって……」


 緑の瞳に涙をためる姿に、その場にいる人間はカリーナが自分の子どもたちに駆け寄る姿を想像した。


 が、その予想は見事に裏切られた。


 カリーナはオレールとリュネットを見たまま右手に握りこぶしを作ると、レンツォの顔面に向けてぶつけた。


「こんなに美形に育つなら、手元で私好みに育てたかったのに!」


 その言葉と行動に誰もが唖然とする中、レンツォだけは平然とその拳を両手で受け止めている。


 レンツォはため息を吐きながら言った。


「おれも二人を見たときに、おまえならそう言うと思った」


「この貸しは高いわよ」


「わかっている。今度、ハン帝国の偵察に付き合ってやるから、それで勘弁しろ」


「しょうがないわね」


 その会話にオーブがカミーユに訊ねた。


「ハン帝国ってどこだ?」


「アルガ・ロンガ国と同じぐらいの大国で、我が国よりずっと東にあります。今のところお互い牽制している状況です」


「そんな国の偵察に王妃自ら行くのかよ」


 オーブの呆れた声にレンツォが肩をすくめる。


「しょうがないだろ。偵察ついでに薬草園と毒草園に忍び込んで新しい薬の素材探しをするのが趣味なんだ。しかも、ついでに王宮にも忍び込むからな。付き合うのは面倒だからしたくないんだ」


「面倒程度で命の危険は感じないのかよ?」


「それはないな」


 あっさりとした答えにオーブが苦笑いをする。


 帝国と名乗るだけの国の心臓部なのだから警備はかなり厳重なはずだし、見つかれば拷問か即殺の可能性が高いのに、それを面倒で済ませられるところからレンツォとカリーナの技量が解る。


「そんなことが趣味なんて王妃がすることじゃないだろ。よく結婚できたな。周囲が猛反対しただろ?」


 オーブの言葉にレンツォではなくカリーナが勢いよく答えた。


「別に私は結婚しなくてよかったのよ。っていうか、そんなこと考えてもいなかったわ。なのによ!信じられる?十六歳になったばかりの私を魔力が強いって理由だけで引っ捕まえて結婚式して子作りよ?幼馴染だったとはいえ、あれは衝撃的だったわ。しかもシャブラ国に潜入させるために魔力が強い子がいるって連日、連夜の休み無し。本当、男って獣とか言うけど、あれは野獣よ。いや、鬼畜ね。おかげでたくさんの子宝に恵まれたけど」


 一同が呆然としている中、朱羅はしっかりと紫依の耳を押さえていた。


 オーブが苦笑いをする。


「これは正式な場には出せないな。相当苦労しているだろ」


「察して頂き、ありがとうございます」


 サミルが頭を下げるのを無視してカリーナが話を続ける。


「それでも、やっぱり自分の子どもは可愛いわ。鬼畜の子どもとはいえ、あなたたちのことを考えなかった日は一日もないもの」


「感動の場面のはずなんだけど、余計な一言で雰囲気ぶち壊しだな」


「いつものことです」


 オーブとサミルが淡々と会話をする中、ずっと黙って聞いていたレンツォが叫ぶ。


「好き勝手言っているけどなぁ!あのときは、ああるすしかなかったんだよ!むしろ自分でそういう状況にしたんだろうが!」


「私は何も言っていないわ。あなたが勝手にしたんでしょ?」


「あんな状況になって、ほっとけるか!」


 耳を塞がれていた手を外された紫依が朱羅を見上げる。


「どんなお話をされていたのですか?」


「たくさん子どもがいるがオレールとリュネットのことを思わなかった日はない、という話だ」


 かなりの簡略化にオーブが呆れたように言う。


「省略しすぎじゃないか?」


「十分だろ」


「そうなのですか?」


 無垢な深紅の瞳を向けられてオーブはすぐに言葉が出なかった。


 現代文明から隔離されて育った純粋培養の紫依にありのままを言うことは躊躇われ、オーブはとりあえず頷くだけでその場をやり過ごした。


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