旅立つ(飛び立つ)場合
朝日が昇る前に身支度を整えたカミーユはオレールたちと城の裏にある湖で勇者たちを待っていた。
深い霧が周囲を覆っているため見張りの兵に見つかる心配も少ない。そんな中、リュネットの表情が冴えなかった。
フェリクスが心配そうにリュネットに声をかける。
「体調がよろしくありませんか?」
リュネットが軽く首を横に振る。
「いえ、昨日のことを考えると勇者様方とお顔を合わせられません」
沈むリュネットにカミーユが軽く言った。
「あの四人でしたら、悪いのは王なのだから気にするな、と言いますよ」
王を軽んじる発言にオレールがカミーユを睨む。
「その言い方はどうかと思うが」
「事実なんですから。王があんなことを言うなんて事前に知っていたら、僕は全力で止めていましたよ」
カミーユの言葉にリュネットが俯いて震える声で話した。
「あの……私は知っていたのです。ただ、勇者様方も了承していると伺っていたものですから」
そう言って小さくなったリュネットをフェリクスが優しく慰める。
「リュネット様は悪くありません。そのことは勇者様方もご存知です。ですから、そんなにご自分を責めないで下さい」
「ですが……」
リュネットが顔を上げると四つの人影が視界に入った。深い霧の中をこちらに向かって歩いてきている。
最初に姿が見えたのはオーブだった。いつもの笑顔でカミーユたちに手を振ってくる。
「待たせたか?」
その問いにカミーユは繕うこともせず単直に答えた。
「少し待ちました」
「悪い、悪い。なんせ徹夜しているのと、寝起きが超悪いのがいて、なかなか準備が出来なかったんだ」
そう言いながらオーブが振り返る。
そこには少し眠そうに欠伸をしている蘭雪とほとんど目が開いていない朱羅がいた。
そんな中、紫依はいつも通り人形のような笑顔で挨拶をしてきた。
「みなさん、おはようございます」
「おはようございます。寝起きが悪いのはしょうがないとして、どうして徹夜しているのですか?」
カミーユの質問にオーブが苦い顔をして蘭雪を見た。男装はしておらず豊満な体型を見せながらも動きやすい旅人の服を着ている。
「秘蔵書を読むって図書館に忍び込んで、そのまま一晩出てこなかったんだよ」
呆れたようなオーブの言葉に蘭雪が少し眠そうに反論した。
「忍び込むって言い方が悪いわよ。ちゃんと正面から入ったんだから。それに私はこの国にある書物のすべてを読める権利を条件に封印をすることを了承したんだから。当然の権利よ」
蘭雪を見ながらフェリクスが心配そうに声をかける。
「魔王の封印は大丈夫ですか?」
「問題ないわ。彼らも来ているだろうし」
その言葉にカミーユが周囲を見回す。
「誰か来るのですか?」
「それは行けばわかるわ。とりあえず行きましょうか」
蘭雪が紫依に声をかける。紫依は頷いてドラゴンから貰ったウロコを出しすと両手で包み込むように握りしめて瞳を閉じた。
すると、少しして深い霧の中に巨大な翼を羽ばたかせたドラゴンが空から姿を現した。
深い霧の中でも迷いなく紫依を見つけて目の前に降り立つ。
「お呼びか、小さき姫よ」
「私たちを魔王の城まで連れて行ってもらえませんか?」
紫依の言葉にドラゴンが自分の背中を見た。
「我が背中に乗られよ。ただ、全員は乗れぬので、往復するようになるが、よろしいか?」
ドラゴンの提案に蘭雪が首を横に振ってカミーユたちを指さした。
「全員じゃなくて、この四人だけでいいわ。それなら一回で運べるかしら?」
「それなら出来るが。小さき姫よ、それでよいのか?」
「はい」
頷く紫依にオレールが慌てる。
「紫依様はどうされるのですか?転移魔法は魔力を多量に消費しますし、離れるのは危険です」
「私たちは大丈夫ですから、オレールさんたちは竜の背中に乗って下さい」
半ば紫依に押されるようにオレールたちがドラゴンの背中に乗る。
ドラゴンの背はウロコで覆われているが岩のようにゴツゴツしており滑り落ちるような心配はなかった。
「よし、じゃあ行くか」
オーブの掛け声と同時に背中に一対の大きな白い翼が現れた。その姿にドラゴンの背中に乗っている四人が口を開けたまま声も出さずに唖然とした。
続けて蘭雪が背中に二対の大きな白い翼を出した。
カミーユがなんとか声を出して質問をする。
「それは魔法ですか?」
紫依が背中に出した三対の大きな白い翼を動かしながら言った。
「そう思って下さい」
紫依の回答にカミーユは翼を出した人たちには聞こえないぐらいの小声で呟いた。
「そう思って、ということは違うということなんですね」
隣にいるフェリクスが相槌を打つ。
「今更だが、私たちはとんでもないモノを召喚してしまったようだな」
「そうですね。ですが、私たちと違う種族というのであれば、あの魔力量も納得です」
「おい」
その声にカミーユたちが顔を上げると、目の前には翼を羽ばたかせて宙に浮いているオーブがいた。
「言っとくがオレたちは人間だからな、一応」
オーブの言動に驚きながらもカミーユは聞き逃さなかった言葉を指摘した。
「一応ってことは完全に人間ではないのでしょう?」
鋭い指摘にオーブが苦笑いをする。
「細かいことは気にするな」
そう言ってオーブが下を見ると、蘭雪が紫依の翼を見て不思議そうな顔をしていた。
「別に紫依は翼を出さなくても風を使って飛べるでしょ?どうして、わざわざ出したの?」
「みなさんが出されているのに私だけ出さないのは不自然かと思いまして」
「そう?でも、まだ出していないのがいるけど」
蘭雪の視線の先には朱羅が半分目を閉じた状態で突っ立っている。
「朱羅、置いて行くわよ」
蘭雪にせっつかれて朱羅は無言で背中に一対の大きな白い翼を出した。
「では、参るぞ。我について来なされ」
ドラゴンは翼を大きく羽ばたかせ、その巨体を浮かび上がらせた。
ドラゴンの翼で巻き起こった突風で周囲の霧が吹き飛びそうなのだが、逆に霧はますます濃くなっていく。
その光景を見てオーブは蘭雪に声をかけた。
「わざわざ目隠しのために霧を発生させたのか?」
「邪魔されたくなかったのよ」
「じゃあ、邪魔されずに出発するか」
四人がドラゴンの後について空に飛び立った。




