第七話
暫くの沈黙が続く。
私はレイスと──愛する息子との、最期になるであろう一時を名残惜しんでいた。いつもしているこの頭を撫でることさえ愛しく、ずっとしていたいと思った。
レイスは気付いているのだろうか…いつもと撫で方が違うことに。
私はゆっくりとレイスの目の前にしゃがむと、真っ直ぐ目を見てこう言った。
「…レイス。母さん、この戦争終わらせてくるね。」
レイスはそれを聞くと、私の服を乱暴に掴み、泣き叫んだ。
「やめてよ!母さん一人でなんて絶対、絶対に無理だよ!!!確かに母さんは強いよ!けれど、こんな危ない人たちが暴れる戦争なんて、母さんだけで終らせられる訳が──」
私はレイスの言葉を遮った。
「レイス…母さん、『化け物』なんだ。自分の生まれた故郷の村を…国の半分を…魔法で消してしまったの。跡形もなく。」
「っ…!?」
レイスは絶句した。
(こんなに優しい母さんが『化け物』……?国半分を消す程の…?)
レイスが黙っている間に話を続ける。
「それと…もう1つ。お父さんは亡くなっているの。ずっと隠していてごめんなさい。でも…貴方を悲しませたくなかったのよ…ずっと、ずっと笑っていて欲しかった…っ…!だから…っ…だから…」
「母…さん…?」
ここまで来て、自分の異変に気付いた。
「…え…?」
──泣いていた。
今まで押さえていた物が込み上げてくる。
まるで、ずっと抑えていた悲しみの堰を切ったように。カイルの事、レイスの事、たくさんの事が頭に過り、涙が頬を濡らしていく。
──涙が…止まらない。
レイスはその様子を見て思った。母さんは今まで悲しい思いをしてたんだ、と。
僕に隠してまで我慢してたんだ、と。
レイスはルナティの頭に手を伸ばすと、自分がされているように撫でた。
「…ごめんなさい…ごめんなさいぃ…レイス…っ…ぅうあああぁぁぁあぁぁぁぁああぁぁ……」
それを合図にしたように、私はレイスを強く抱き締め、声をあげて泣いた。
抱きしめられたレイスは母親の匂いを覚えるかのように、深く呼吸した。