第六話
「リフレクト」
またも響く、母さんの冷ややかな声。その瞬間、先程銃を放った兵士が吹き飛ぶ。
「がァっ!?」
吹き飛ばされた兵士は、側の樹木に激突すると、意識を失なったようだ。一瞬、止めを刺しに行こうとした…が、レイスの前で殺すわけにはいかない。
私は他の兵士へと視線をずらす…が、残りの兵士は唖然としている。
だが咄嗟に、私からは逃げ切れないと悟ったのか、武器を構え、形振り構わず此方へと向かってきた。
もう一度、杖を兵士たちに向ける。
錫杖からシャン…と音が鳴る。
「長詠唱…世界の理を創りし暗黒よ…集えよ集え。いまぞ我が杖に宿り、我が身を滅ぼさんとす輩を大地へと結びたまえ…グラヴィティ。」
あり得ない速度でブツブツと何かを言い続けている。やがて杖の先から黒く小さな球体が飛び出た。だが、それはあまりに弱々しかった。
「ハハハッ!何だぁ?その弱そうな」
「弱そう…?ふふ…だって、このくらいじゃないと貴方たち…潰れちゃうから。」
「なっ…!?」
球体は地面へとぶつかるとパチンと弾けた。
その瞬間、兵士全員が地面へと叩きつけられる。拘束具も付けられていないのに身動きすらできない。
そればかりか体が地面へメキメキと沈んでゆく。
「がっ…かはっ…ぐっう……」
重力の圧迫感に兵士たちは呻き声をあげた。
「が…グ…くっそ…がぁぁぁッッ!!」
先程の厳つい顔をした兵士が立ち上がろうとする。
「あら。少しは動けるようね…?けど…」
時は既に遅い。
兵士の苦しみに終止符を打つように…私は叫んだ。
「詠唱ッ!!雷にその身を裁かれん!ライジンッ!」
兵士たちに雷撃が降り注ぐ。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」
雷撃が止み、先程の兵士たちからは黒煙が上がり、ビクビクと痙攣している。それを見たレイスが一目散に此方へと走り寄り、尋ねてきた。
「こ…殺しちゃったの?みんな。」
「大丈夫。殺してはいないよ。ただ気絶してるだけ。あ、念のため、拘束魔法だけはかけておこうかな…」
レイスが、ほっ…と胸を撫で下ろす。しかしその表情は曇ったままだった。
そして口を開く。
「ねぇ…母さん。戦争ってこんな風な人たちと争わなきゃならないの…?僕、また母さんが危ない目に遇うのは嫌だよ!」
レイスは泣きそうになりながら、訴えてきた。──我慢の限界だった。
これ以上レイスを怖がらせたくない。私はレイスを抱き締める。
──この身が滅びようが何をされようが関係ない。……戦争を終わらせよう。
私は【化け物】なんだから。
ゆっくり立ち上がり、レイスの頭を撫でた。
優しく…そして、ずっと覚えていてくれるように。
そして…これが私の最期になるかのように。