第五話
「レイス。草むらに隠れてなさい。」
「え…?……!」
レイスは母親のいつもと違う雰囲気を感じたのか、黙って草むらへと隠れた。それを確認すると安心し、それと同時に嘆息もついた。
(また『あの力』を使うのか…)
そう思うと気分が落ち込む。私は幼き頃から他人より魔力の値が桁違いに多かった。
周りからは【化け物】と蔑まれ、カイルと出会うまで一人で生きてきた。
そしてルナティが子供の時の事。故郷の村があった国は、当時大陸の大半を閉めていた。
その村の誰もが読めなかった謎の本。それには禁魔法が記されていた。何故そんな危険な物が村にあったのかはわからない…が。
何故か私には、その本が不思議と読めたのだ。そして、興味本意で書いてあることをやった。
──ただそれだけなのに。
その日、『国の半分』が消えた。死亡者、怪我人は数えきれないらしい。それ以来、幾分かの魔法をコントロール出来るようにはなったが、今でも強い魔力を使う魔法は、暴走をしてしまうことがあり、今のいままで強力な魔法を使うことはなかった。
──これ以上犠牲を増やさないために、そして二度と過ちを繰り返さないために。
それでも───今、レイスを守るために、どんな犠牲を払ってでも良い…そんな覚悟があった。
(もう、私は家族を失いたくない!)
手を前に振りかざす……すると、白銀の錫杖が現れ、普段見慣れた服だったものが、この世の物とは思えない純白のドレスへと変わってゆく…
レイスはルナティのあんな姿を見たことはない。
驚き、戸惑いの言葉よりも先に出たのは……
「きれ…い……」
その一言に尽きた。
「魔法聖装…断罪魔服…。」
そう小さく呟き、スタスタと兵士の集団へと近づいてゆく。兵士の一人が、それに気付いたようだ。
「なんだ?あれは…天使…??」
厳つい顔をした兵士が、気づいた兵士の頭を小突く。
「バカ。天使なんている訳ねぇだろ。ぼーっとしてんじゃ…ね…ぇ?」
そいつもまた気づいたようだ。私は兵士たちへと杖を振りかざすと、こう叫んだ。
「この森は貴様らのような野蛮な輩が来るような土地ではない!ここから大人しく出てゆくのなら、私は危害は加えぬ」
まるでそれはこの森の守り神のような言葉であった。
「ククク……アッハハハハハッ」
もう一人の若い兵士が笑い始める。まるで生き物を虚仮にするような、そんな笑い声で。
「お前バカじゃねぇの?この人数を一人で倒すってか?」
バカにした表情から一気に冷酷な表情へと変わる。
「舐めてんじゃねぇよ!凡人風情がっ!!」
兵士の手には銃が携えられていた。その銃口を私へと向ける…。
(母さんっ!!)
様子を見ていたレイスが声を上げようとするが、いきなりの事に声が出ない。
──初めて感じる、何よりも恐ろしい感覚。
こんなにレイスが慌てているのにルナティは怯えもしない。その威風堂々たる私の様子に兵士がますます腹を立てたようだ。
「ってかさぁ…さっきから何でそんな強気なの?そんな神々しい感じに見せりゃあ、俺たちが逃げるとでも思った?…気に食わねぇ…本当気に食わないねぇ…その表情!!もっと怯えろよ?ほら?お前はもう……」
引き金へと指を掛け……そして…──引いた。
「死ぬんだよぉッ!」
その叫び声と同時に銃声が響く。銃弾が私の脳天へと撃ち込まれる…思わず悲鳴をあげ、レイスは目を逸らした…。
その時、レイスの耳には銃弾を撃ち込まれたはずの、母親の声が届いた。
いつもの母さんからは想像出来ない、とてつもなく──冷たい声が。
「──警告は…したからね。」