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BEAST ON BRAVE  作者: 天狼
序章【始まりの悲劇】
3/21

第三話

狼に良く似た獣人の少年が、森の中を嬉しそうに笑みを浮かべ駆けてゆく。体毛は黒で、髪が癖毛なのか頭頂部の毛がピョコンと立っており、それがやけに少年っぽさを出していた。


彼が駆けてゆくその先には、母親が──ルナティが木陰に座って、本を読んでいる。木漏れ日が彼女の白い体毛に当たり、美しく輝いていた。


「母さぁーんっ!」


先程の少年が息を切らして目の前まで来ると、その手に持つリンゴを笑顔で見せた。


「リンゴ!僕一人で見つけたんだよ!母さんにあげる!」

「まぁ…!よく採れたわね…!ありがとう。」


朗らかな笑みを浮かべ、少年の頭を撫ぜる。

すると少年は照れくさそうに


「えへへ……」


と笑った。


カイルが亡くなった日から4年…。

この少年──レイスは7才になった。レイスにはまだカイルの事を伝えてはいない。


いつかこの子がその事実を、受け止めれるようになるまでは『仕事で帰って来れない』とだけ伝え、教えない様にしていた。


しかし、7才といえばもう自分に整理がついてくる歳だ。


(そろそろ伝えなきゃならないな……。)


そうルナティは感じていた。


(事実を知った時、この子はどう感じ、どうなるのか。)


「ねぇ、レイス……」


ふと、呼び掛けてみる。


「ん?なぁに?母さん。」


レイスは満面の笑顔で聞き返してきた。いつかのカイルにそっくりの笑顔だ。


(この笑顔に悲しい事実を突き付けられる訳がない…。)


胸の奥が締め付けられるような気がした。そうしてまた、私はまた…隠し(にげ)てしまう。


(まだ教える訳にはいかない…。)


「……何でもない。リンゴ、食べよっか?」


先程受け取ったリンゴをレイスに見せる。するとさらに明るい笑顔で、


「うんっ!!」


と答えてくれた。


このレイスの笑顔がカイルを失った私にとって唯一の救いであり、かけがえのない幸せであった。


───だが、またも、幸せは長くは続きはしなかった。


この二年後に、大陸に戦争が起きる。始めは戦火の届かなかったこの森も、徐々に巻き込まれていった。そして、【あの日】が訪れる。


レイスと私は、あの森の広い草原にいた。あの日、カイルを探した…街の方では黒煙が上がり、その光景が只でさえ戦火に怯えるレイスの恐怖心を、より強くした。


お陰で、此処のところずっとレイスは笑顔を見せてくれない。震えて、私に抱きついてくる。そして今日もまた……


私はこの戦争を起こした者を強く憎んだ。


「母さん…」


思いが伝わってしまったのか、レイスがか細い声で呟く。その声は若干震えていた。


(ダメだな、私。レイスを怖がらせるなんて…)


「大丈夫。私がいるから。母さん強いんだよ?」


するとレイスは顔を上げ、泣き腫らした目で見つめながら言った。


「本当?」

「そうよ?悪いやつなんてバババーンって倒しちゃうんだから!」


おどけて見せると、ほんの少しだけ、レイスが笑ってくれた。

それは、本当に久しぶりに見た笑顔だった。

頷き、手をレイスの頭に乗せようとしたとき……何かに気づく。


──武装した人間の集団が此方へと近づいてくる。


「そんな…!?もうここまで攻めてきたの……!?」


数は6人。いづれにせよ、レイスを危険に晒す訳にはいかない。そして私は決心した。



──戦おう、と

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