誰か…
温泉を泣く泣く諦めた私は、とりあえずお家に帰ってきました。
クロさんはいつの間にか居なくなっていて、丘に着いたとほぼ同時に夜が訪れた。
夜は真っ暗で月もなくて普通なら怖いと思うんだけど、昼間より安心するのはなんでかな。
やんわりと包まれて守られてるみたいに感じる。
夜はクロさんもいなくてちょっとさみしいくて、独り言が多くなります。
そして昼間あったことを鬱々と考えてしまいます。
あれは怖かった。
油断してたのもあるよね。
だってこれまでは何にも会わなかったんだもの。
「あれ?そういえばあの時クロさんおっきくなった?」
思い返して気づく。
大きさ自在?
いいぇ、でも壁っぽかった。
形も自在?
…………良いね!!
きっといろんな物に変身できるはずだ!!
明日聞いてみよう。
そんで、色々見せてもらえたら嬉しいな。
ネコっぽいイメージがあるから、小動物系とかもいいなぁ。
「………もしかして、クロさんって人間に変身できたりする?」
いやいや、高望みはいかんよ!
もしかしたら変身なんてできないかもしれないし。
でも…
「お話…したいな」
言語的コミュニケーションっす。
言葉には言葉で返してもらえたら嬉しい。
たとえ言葉が違ってても、頑張って覚えるから。
人の目を見て話すこと。
相手から言葉をもらうこと。
いつもなら嫌でも行っていて、時には面倒に思えていた他者との会話が懐かしい。
3日目にして限界も近いよ。
泣いたことで少し楽になったけど、やっぱり誰かの顔が見たいって思うよ。
なんならこの前セクハラしてきたおじいちゃんでも。
この前言いがかりつけてきたクレーマーのおばちゃんでも。
好きになれない職場の同僚、上司、生意気な後輩でも。
この前別れた元彼でも。
「………だれでもいい」
誰かの傍に居たいな。