境界
「・・・クロさーん、どこ行ったのー」
迷子です。
クロさんが。
いえ、ごめんなさい、私です。
いや、迷子じゃないかも。
クロさんに安全に夜を過ごせそうなとこって言って連れてこられたとこ、たぶん最初の丘、だと思います。
んで、辺りも暗くなる頃かな、あ、火を起こさないと危ないよね。クロさん、燃やせそうな物ある?
って聴こうと思ったら、クロさんはもういませんでした・・・。
頼りすぎてきらわれたか。
単に自分の家に帰ったのか。
後者希望です。
言葉は無くても、この世界での友人第一号に嫌われるのは切ないです。
家族の元に返ったんだって信じて、自力で夜を越す準備をします。
さて木の枝でも拾ってくるかね。
じゃん。テレッテレー♪
ライター♪
昨日禁煙宣言した友達から託された100円ライター♪
禁煙宣言ありがとう!昨日と同じコートでよかったー。
早速火をつけまして、リンゴもどきを炙って食べようかな。
わー、サバイバルだー。
みんなライター持ってトリップなんてしないよね。運がいいのか、悪いのか…
「え?」
私は今、大木の根元。
私の背には木の幹があります。
その幹がかすかに振動したように思った。背にあたる微かな揺れ。背を軽く押されたような衝撃。
「ええ?っぎゃあ!」
木を中心に、私を通過して黒い霧のようなものが放出される。
「はわわわわ…」
私の表面をなぞっていく霧状のものをあわてて振り払うけど、どんどん増え始めて。
気付けば辺りは霧が立ち込めていた。
空を覆って霧はゆっくりと世界を夜に変えていく。
青空と夜空の境目が、地平線と交わったとき、辺りに光がなくなっていた。
空には星が瞬き、ビロードの闇が広がる。
「うわぁ…」
その光景をしばらくはじっと見つめていた。
青空に広がっていく闇がキレイで、地平線と交わった瞬間の空気の変貌。
世界の昼と夜の境目は幻想的な風景だった。
「この木から、出たよね…」
振り返れば、かすかに発光しているように見える大木がある。
この暗い中でこの木だけはっきりと見える。
そういえば昨日も、この木が見えたから近くまでこれたんだ。
クロさんが安全っていったこの木は一体何なのかな。
「・・・明日する事はー、寝るとこ何とかしよう。帰り方わかんないもの、せめて快適を求める」
コートをかけて横になる。
やっぱり今日も月は見えなかった。
昨日もお世話になった大木がうっすらと光ってるように見える。青白い光がぽわぽわ生まれて消えていく。幻想的な光景に見入ってしまった。昨日もこうだったっけ?忘れちゃったけど、綺麗だし、明るくて、いいや。
明日クロさん来るかな。
来てくれると良いな。
自分でつけた火がいつの間にか消えていても、気づかなかったくらい、青い光に見入っていた。
セルの木の根元で木を見上げているヒト。
ヒトと呼ばれる形のもの。
遠目にしか見たことがなかった小さく、弱く、賢い種族。
夜である私が見るヒトは、家の中で明かりを点けて笑ったり怒ったり。
独りで過ごすものはいない。
だからだろうか、この世界に迷い込んできたヒトを気にかけてしまうのは。
話す者のいない、寂しさを知っているから。