魔法?
「あきらさんがこっちに来た時ですかね……すごく懐かしい気配がして、日本人が来たって確信したんです。だから、自由なうちに会ってみたいって思って……」
泣きそうな顔になんないで……
私がいじめてるみたい……
なんでそんな怯えた顔すんのよ。
私怖い?
……怖い顔してるかもね、こないだ彼氏と別れたばっかりで、知らない人のマリッジブルーの話なんてはっきり言って興味ありませんもの!
でもなあ……日本人が懐かしくってって気持ちは理解できるから許してあげたい気持ちになる。
私も前回はマジで死ぬかと思ったし。
「美月ちゃん、早く帰ったほうが良いんじゃない?領主さんも心配してるよ、きっと」
だって賞金までつけて捕まえようとしたくらいには心配されてるでしょ。
ううっ
美月ちゃんは何とも曖昧に笑った。
「結婚嫌なの?」
「……手段が気に食わないの。あたしの知らないうちに全てが決まってた!結婚を受けざるを得ない環境にして追い込んだ!それが嫌」
逃げられないように最善の手を尽くしてってことか。
そんだけ愛されてんじゃないの?
だんまりを決め込んだのか、美月ちゃんの隣でお茶をすする樹くんは見てる私に気づいて苦笑して言った。
「あいつは初めて会った10年前から美月が大好きなんですけどね。「嘘よ!」」
「少しは俺の話も聞いて」
そうか、へたれか。
領主はへたれキャラ。
言い合いをし始めた二人を見ていたら、膝に乗ってたクロさんがテシテシとしっぽでたたいてきた。
《ねー、おなかすいた》
見上げてくる瞳はキラキラ。
癒される。
なんだかよくわからない結婚話にやさぐれてた心が軽くなっていくよ。
さすがクロさん。
……早く帰りたいなあ。
「あきらさんも一緒に行くなら帰る」
なんですと?
ごめん、聞いてなかったんだけど、なんでそんな話になってるの?
だから、今晩の内に帰りたいんですって。
あんまり時間かけるとお肌が!
某・年齢肌用基礎化粧品をお試ししなくちゃいけなくなるかもしれないじゃない!
すがるようにみるな!
行ったら更なる惚気攻撃にあいそうで行きたくないんです。
あ!
なんか体が動かない!
「……逃げられると美月も逃げそうな気がするし……」
声も出ない!
「……人さらいって思われたら困るでしょ……」
魔法?!
アリスのチャシャ猫みたいな顔で見てないで少しは助けようとしてよ!
クロさーん!!