転んだ先
「ひゃあぎゃ!」
べたん
多分そんな音がしたと思う。
なんとも情けない声を出してしまったことに恥ずかしくなり、急いで立ち上がった。
「……あれ?」
あたりは真っ暗だった。
「……なに?」
何度も瞬きして、目をこする。恐る恐る目を開けてみれば、外だということは分かった。
暑いくらいの風、瞬く星、虫の声、周りは背の高い草、足元は多分土。
「……どこよ」
とりあえず携帯ライトを点けて辺りを見回してみるが草のせいでよく見えない。
先ほどまで病院にいたはず、夜勤明けで帰るとこだったから朝だったはず、季節は冬だったはず。
転ぶ前の状況を思い出して頭を抱える。
「…トリップってやつ?」
ライトノベル大好きで、トリップものもよく読んでた。
認めたくないが自分は違うところに来てしまったらしい。
せめて日本のどこかがいいなあ、お金使えるかな。家までどうやって帰ろう…
こういう展開になった主人公たちはどうやって帰ったんだっけ…
大きくため息をついて、座れそうなところを探して草をかき分けた。
「あー…疲れた」
夜勤明けに太陽の光は厳しい。
しょぼしょぼする目をこすって、首を回せばゴキッと音がした。
今日は帰ったら寝る。
ずっと寝る。
だって疲れたんだもん。
あ、でも買い物行かなきゃ…
重い足取りで職員玄関に向かう。
玄関を出れば雪が降っているんだろうと思うと、より憂鬱になる。
「…っつ、わあ!」
廊下の水滴に靴が滑ってバランスを崩す。
あわてて傍の壁に手をついた。
はず…だったんだけど。
なんか、すり抜けた…
眠気なんて一気にさめて、必死に草をかき分ける。
どれくらい進んだか分からないけど、少し小高い丘を登ったようだ。
丘の上にあった大木に寄りかかって座り込めば、もう足に力が入らなかった。
「…ほんと、どこよ、ここ」
つぶやく声も弱弱しく感じてしまう。
「…月が、ない」
見上げる空には月がなかった。
いや、日本でも月の見えない夜もあるしね!
携帯のライトを消してコートを脱いで足にかける。
帰れるのかな、明日も勤務なんだけどな…
「疲れたぁ…」
少しだけ休むつもりで目を閉じた。
不思議と怖いとか、身の危険とか考えていなかった。
普段なら外で寝るなんて考えられないのに。
薄れていく意識の中で、ネコの目のような金色の光を見た気がした。




