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階段から落ちるときは細心の注意を払いましょう。

「寮を案内するって言っても、まずは寮の人達にご挨拶しなきゃね」

「挨拶周りはご近所付き合いの第一歩、ってか?」

「そういうことッ」

 とりあえず部屋を出た俺達は、一階上の三階へと向かうため、中央にある階段を上っていた。

 ちなみに先程まで俺が寝ていたのは二階にあるアリスの部屋で、彼女の話によると同じ階の空き部屋が俺の部屋になるそうだ。

「同じ階で嬉しいな。今度遊びに行ってもいいかな?」

 あの弾けるような笑顔の前では、俺に断る権利も勇気も度胸もない。

 ……せいぜい、服やら物を散らかしたり、なんか後ろめたいモノや変なモノを置きっぱなしにしたりしないよう気をつけなければ。

 あ、そうだ。

「ところでさ、この寮には、一体どういう奴らが住んでいるんだ? なんかやたら仰々しい、いろいろ不足している説明は寮長から受けたんだが」

「あはは、それはね……見たほうが早いよ」


 そして三階に上がった途端、

「先手必勝!」

「のわっ! あだだだだだだだだぁッ!?」

 俺は何者かに勢いよく突き飛ばされ、奇声を発しながら頭から階段を滑り落ちていった。

 ゴスゴスと段差に身体を打ちつけ、階下まで落ちきったところで静止する。

「いつつ、痛ってぇ……いきなり何しやがる!」

 俺は相手に向かって思いっきり怒鳴った。頭の打ちどころが悪かったら危うく昇天していたかもしれない。幸いそれはなかったが、階段の角にさんざん当たったのでカナリ痛い。

 だが突き落とした張本人は謝る素振りもなく、階段の上から見下ろす形で仁王立ちしながら、偉そうにこう言うのであった。

「それは耐えられなかった貴様が悪いのだ! お前みたいなひ弱なヤツはこの雷華様がその腐れきった根性から叩き直してやる! さあ土下座でもして褒めよ讃えよ感謝しろ! 感謝感激雨アラレの嵐だっ!」

 句読点もなしに長ったらしい台詞を吐いたのは、俺より遥かに年下の……小学校四年生ぐらいの女の子だった。

 まるでそれ自体が光を放ってるように輝く金色の髪をツインテールにし、太陽高く昇る曇りなき青空のような瞳は、強い眼光を俺に向けて一直線に放っている。下は動きやすそうな短パンと、上は緑のタンクトップの下に黄色のキャミソールを重ね着。服装からして活動的な少女なのだろう。しかめっ面、感嘆符のやけに多そうな言動……とくれば、なんか容易に性格が読めるのだが気のせいだろうか。

 しかし出会い頭でいきなり階段から落とされるとは……洒落にならない。これは一種の宣戦布告と受け取っていいのか?

 だとしたら、俺のやるべきことは一つ。

「なんだなんだ? 早速雷華様に畏縮されたのか。つくづく弱っちいヤツだな……」

 態度だけはご立派な少女の挑発に乗せられることなく、俺は至って冷静を装いながら階段をすたすたと駆け上がり、少女の前に立ち彼女のおでこに手をかざし停止させ、


〈ピシッ〉


 思いっきり力を込めてデコピンしてやった。

「ッ! ぅ、ぅうぅ……ッ、い、いきなり何するんだ無礼なヤツめっ!」

「それはこっちの台詞っつーの! 初対面で突然こんな目に合わされちゃコレくらい、いやホントだったらこんなデコピン程度じゃ気が済まないのを、チビっ子だからってわざわざ手加減してやってんだ。感謝するのはお前の方じゃねえのか?」

「何をぅ! この雷華様に向かって、なんて生意気な……!」

「だからそれを言うならこっちの台詞だっての!」

 俺がそう言い返すと、この生意気な少女はほんの少したじろいだが、すぐ反論してきた。

 それにしても、あれだけ偉そうに振る舞っていたわりに、デコピン一つで涙目とは……こうなるとさすがに年相応だな。

「貴様、雷華様に真っ向から刃向かうというか。ならば、それなりの報復は覚悟して貰わねばな……」

「……少しは年相応の喋り方した方がいいんじゃねーの? どこで覚えてきたのか知らんが、ガキが背伸びしたってちっともかっこよくなんてないぞ? 正しく使えてるかどうか微妙だし」

「むっかぁああ! もういい、殺ル!」

 少女が手を振り上げた瞬間、〈バチンッ!〉という音と共に目の前の床が黒く焦げた。

「なッ! あ、危な……なんだ今の」

「今のはわざと当てないでおいたが、次は当てるぞ」

 見ると、少女の周りになにやら青白い光が、無数に走っているのが分かった。二つ結びの髪の毛は逆立っていて、バチバチと不穏な音が鳴っている。

 おそらく――電流か何かだと思う。

 いやいや、そんな。まるで漫画やアニメみたいな……って、じゃあ実際目の前にいるコイツは何なんだ。明らかに普通じゃない様子のコイツは。


 つまり、ひょっとして、ここにいるヤツってみんな――


 だがここで不意にアリスが大声を出し、俺の思考は遮られた。

「大和くんも雷華ちゃんもそこまでッ! でないと、アリス怒るよ?」

「ひっ!」

 今の悲鳴は俺ではない。雷華……でいいんだよな、そいつが短くしゃっくりのような悲鳴を上げ、恐る恐るアリスの機嫌を伺っているようだった。

 そんなに怒ると恐いのか……? 彼女の表情が(俺の見る限り)常に笑顔なので想像もつかないが。

 改めてアリスから紹介される。

「この娘は【荒垣雷華あらがきらいか】ちゃん。ちょっと元気すぎるのが困るけど、活発で可愛い女の子だよ。仲良くしてあげてね?」

「ふん、せいぜい三日でくたばらないよう努めることだな」

「腹立つわ……すっげえ腹立つわぁ……」

 たぶん仲良くなれそうにもない。俺は即座に結論を出したのだった。


 ◆◆◆


「さて、雷華ちゃんともご挨拶終わったし、次は風太くんかなッ」

 パンッと両手を合わせて、仕切りなおすアリス。

「それなんだけどアリス姉ちゃん。風太なら今朝からずっといないぞ」

「えッ? 風太くんいないの?」

「うん。たぶん夕飯までには帰ってくるだろうが……」

 二人が会話してる間、俺はポカーンとしていた。

 何の話――そうだ、今はアリスにこの寮の住人紹介をしてもらってるんだっけか。さっきのドタバタで忘れかけてた。

「えっと、口挟んで済まないが、風太って誰?」

「あっ、ごめんね。えっと、風太くんは雷華ちゃんのお兄さん。いつもは雷華ちゃんと一緒にいるんだけど、今はどっかに行っちゃっていないみたいなの」

「ふーん。コイツの兄貴か……」

 ろくな育ち方してなさそうだな。雷華コイツ見る限り。

「震子姉ちゃんも数日前から見かけてないぞ。ってことは、残りは……」

「……怯助さん、だね」

 ゴクリ、とつばを飲む音が聞こえそうな表情で、二人がうなづいている。

「こ、今度は誰だよ」

「【暗田怯助くらたきょうすけ】さん。アリスたち寮生の中では一番年上なんだけど……」

「極度のビビりで、ひきこもりだ。シャレにならないレベルの」

 シャレにならないレベルのひきこもりって。よっぽど暗い人なのか?

「でも、ただのひきこもりだろ?」

 なんでそんな戦々恐々する必要があるんだ?


 三階の廊下を少し行くと、アリスはとある部屋の前で立ち止まった。

「この部屋が怯助さんのお部屋だよ」

 そう言いながらアリスがドアを開け、部屋に上がり込む。同様に雷華も無断で室内に入っていく。

「ちょ、ちょっと、勝手に入り込んでいいのか? 仮にも人の部屋なんだからプライバシーってもの、が……」

 ……部屋? 暗すぎてまったくよく分からない。単に何も見えないからか本当に何もないなのか分からないが、空間がとても広く感じる気がする。

 とりあえず入り口付近の壁を触り、照明のスイッチを探す。スイッチは予想通りの場所にあり、それをパチンと付けた。

「……あれ、全然明るくならないな」

 パチパチと何度も付け直してみるが、一向に部屋は明るくならない。これは照明のスイッチじゃないのか?

 じゃあこれは何のスイッチ……?

「大和くん後ろッ!」

「え……っうおぉあぁッ!?」

 俺が後ろを振り向いた刹那、真っ先に眼前に飛び込んできたのは――網?

 いや、網じゃない! こ、これは――ハエ叩き!?

 間一髪でハエ叩きをかわし、着地しようとして――


 足元の地面がなくなっていた。


「――うっ、うわぁぁあああああああああ!」

 そのままわけもわからず真っ逆さまへと、俺は落ちていったのだった。


 ◆◆◆


「ら、雷華ちゃん……落とし穴のスイッチ、押したね?」

「ふん。これが報復だ。思い知ったか馬鹿者が! アハハハハ!」

「大和くん、ここにいないから聞こえてないよ」

「…………」

「だからたぶん、わけもわからず運悪く落ちた、としか――」

「……アリス姉ちゃん。それは言わない約束っていう暗黙のルールが……」

「とにかく、アリスたちも降りようか。一人であの迷路を通るのは、絶対に危ないよ」

「ひ、一人でも二人でも危険なものは危険――」

「あれ、おかしいな。さっきどこにあるかも分からない落とし穴のスイッチを迷わず押したのは、どこの誰かな?」

「ご、ご案内させていただきます……」


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