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始まりは拉致から。

 学校という名の呪縛から解き放たれ、やっと解放されたというのにこの仕打ちはなんなんだ。

 いつもの通学路を通って下校中、突然黒いスーツに黒いグラサンをかけたスキンヘッドの厳つい男達に捕まり、これまた無駄に胴長な黒い高級車――あぁ、そうかあれがリムジンか――に無理矢理入れられ、そしてどこかもわからない場所に着き、牢屋っぽい部屋に閉じ込められている。


 ――そう、俺こと【渚大和なぎさやまと】は、学校帰りに拉致されたのだ。


 本当に訳がわからない。警官に補導されるような真似はしてないし、そもそもそんなことは生まれてから義務教育の終了した今まで一度もやったことない。

 ……いやそれ以前に、皮肉にもいたって平々凡々な毎日を過ごしてきた俺にそんなことする勇気なんてないんですみたいな。まあどうでもいいのだが。

 とにかく、ごちゃごちゃと自分の頭の中で自己満足な語り文入れてもしょうがない。誰かに是非とも説明をお願いしたいところだ。

 何故俺が、いきなりこんな目に合わされたのか――


 と、そのとき、石畳みの床を規則的に叩くような音が薄暗い牢屋の中に――あぁもう、まどろっこしい。

 足音だ。誰かが俺の入れられたこの牢屋に近づいている。そして足音の主が、何やらぶつぶつ言っているのが微かに聞こえてきた。

「てことは何だ、説明も無しに拉致って来たのか馬鹿共が。それでは私があの面倒な説明をしなければならないだろうが畜生め。お前達は私に手間を取らせるつもりなのか? それともそんなことも考えられない位にまで馬鹿だったというわけか?」

「も、申し訳ありません……」

 女性の声だ。……それにしても、なんて威圧的な口調なんだろう。今のセリフのどこにも女性らしさなんて見当たらなかったぞ。ていうか正直コワい。

 それに対してぺこぺこと謝っているのは、どうやら俺を拉致った黒スーツの一人らしい。

 畳み掛けるかのようなマシンガントークに責められて「申し訳ありません……」をただひたすら繰り返している。ちょっとカワイソウだ。

「おい無事だと思うが無事だろうな。返事をしろ」

 黒スーツにちょっと同情したその時、いつの間にか鉄格子の向こう側にぼんやりと、人の姿が見えた。

 ……その言葉が自分に向けられたモノだとは気づかず、一瞬ぽかんとしてしまった。だがすぐに持ち直して負けじと返答する。

「あぁ、おかげさまで無事……じゃねえだろ! どこだよここ! 俺を捕まえて――」

 人影に掴みかかるように怒涛の勢いでガッと鉄格子に迫ったとき。


〈プシャー〉


「俺を捕まえて一体何をす――うがぁああああああっ!?」

 何やら制汗剤のようなスプレーを、顔面から十センチ未満の距離で発射された。

「今それを説明するんだろうが馬鹿が、黙れ」

「痛ぁああああ! 目がっ! 顔がっ! うあああぁぁ……」

 しばらくコンクリート剥き出しの地面を転げまわること一分弱。

「つあぁ……何すんだてめぇ!」

「あぁ? なんだ貴様その口の利き方は」

 ――コワい。なんて凶悪な顔をする女なんだ。

 つま先から頭の先まですくみあがり、思わず失禁しそうなほどの戦慄が全身を駆け巡った。コワい。この人マジでコワい。

 ようやく彼女の姿を確認したのだが、腰まで届く長い黒髪に、仕事用のような黒いスーツでそのすらっとした体躯を包んでいる。また黒スーツか。外見は二十代後半といったところだろう。しかし怒っているのか無愛想なのかは知らないが、そのせいで少しは整っている顔が台無しだぞ。

「……わかりました。じゃあその説明とやらを聞いてやりましょうじゃないか」

「何なんだその敬意を表しているんだか表してないんだか分からん態度は」

 お前が黙れと言ったんだろうが。

「ふぅ、まぁいい。大人しく聞く気になったのならそれでいいだろう。では、まず初めに……ここは元々お前が住んでいた街からはだいぶ離れている。だから戻ろうとしても無駄だ」

「なっ、じゃあ俺はどうやって家に――」

「話を聞けと言ったはずだが?」

 ギロリ、とその鋭く細い目が睨んでくる。

「…………すいません」

 思わず謝罪。俺は黒スーツ同様にすっかり丸腰だった。

 そして、何やらカナリ重要なことを聞き逃した気がした。

「というわけで、お前は今日から――」

 いや、聞き逃したんじゃない。

 なんか聞いちゃいけないことを……頑張って聞かないようにしてる気がした。

「今日から――でしばらく――」

 聞いちゃダメ聞いちゃダメ聞いちゃダメだって。

「おい、ちゃんと話聞いているだろうな? 返事をしろ」

「はいぃィイ! スンマセンスンマセン聞いていませんでしたスイマセン!」

 結論、俺はこの女性には逆らえない。

「ったく、人がありがたく教えてやっているというのに……仕方ない、これが最後だからな。耳の穴空っぽになるまでかっぽじってよく聞け」

 そう言うと女性は溜め息をつき、再度はっきりと、今度は聞きもらさせないように俺に告げた。

「お前は今日から、この寮でしばらく暮らしてもらうことになる」


「………………はい?」


 最初に出てきたのは、どうしようもない疑問符。大量のクエスチョンマークで脳内メモリは埋め尽くされ、その後、五秒後にフリーズ。頭の中は真っ白に。

「えっと、その、話がまったく見えないんですけど」

「そういえば自己紹介が遅れたな。私はこのたそがれ寮の寮長を勤めている【黒井霞くろいかすみ】だ。今後、私のことは寮長と呼べ」

 目から髪から服から靴まで黒一色なだけあって、名前にも黒が入っていた。でもその黒さと存在感は霞んでなんかいない。つや消しの黒でも塗っているかのように黒ずくめだ。

 そんなどうでもいいことに気を取られているうちに、この上から下まで真っ黒な女性――寮長はやっと、俺の一番はじめの台詞に対する返答をした。

「理由は今はどうでもいいので後ほど説明する。それよりまずはこの寮についてだ」

 ……え、ナニ? さんざん焦らしておいて理由どうでもいいの?

 いやいやいや、ここまでするからにはせめてちゃんと納得のいく説明をしようよ。すごく今更ながら俺への配慮ゼロ? ていうかここ、牢屋とかあるくせに寮だったの?

 と、いうか……なんで俺が、いきなりわけもわからぬ未開の地で、暮らさなきゃならないんだよ!

「……お願いします」

 非常識な発言に対するツッコミや言いたいことを全部呑み込んで、やっとそれだけ言った。

 ……よくやった、よくやったぞ俺。

「よろしい。とりあえず前書きから言っておこう……覚悟はいいか?」

 寮長はここで初めて、少々ためらいながら言った。

 ――ふっ、今更何を言い出すと言うんだろうか。甘く見てもらっちゃ困るな。もう十分イレギュラーを受け入れる覚悟と冷静さは出来ているぜ。

 例え、私達は実は宇宙人なんだとか言われようが俺を解剖して地球人の生態を調べてやろうという土星人か火星人の陰謀だろうが何でもこい。俺は絶対屈しないぞ!


「ここは普通じゃない者による普通じゃない者のための普通じゃない奴らの集められた普通じゃない寮……【たそがれ寮】だ」


 ここは普通じゃない者による、

 普通じゃない者のための、

 普通じゃない奴らの集められた、

 普通じゃない寮、

 たそがれ寮。


 数秒間の静寂。

 そして俺が真っ先に思ったこと、それは……


「どんだけ普通じゃなければそんなに『普通じゃない』を繰り返せるん……だ、よぉ……」


 本当は思いっきり叫びたい気持ちでいっぱいだったが、突然のめまいに襲われ、気持ち悪いような吐き気のような倦怠感のような気分がぐるぐる巡った後、ふっと気を失ったのであった……。


 ◆◆◆


「ふぅ……やっと効いたか」

「ひょっとして、さっきのスプレーですか?」

「あぁ。怯助の奴、強力なヤツを頼むと言っておいたというのに。即効性の欠片もないではないか」

「いや……効果は充分にあったと思うのですが……」

「とにかくこいつを運ぶぞ。どこか空いている部屋を探して運んでおけ」

「わ、分かりました。寮長はどちらへ――」

「――こいつの母親に、事情を説明しに戻る」


初めましての方は初めまして。会いたかったです。

お久しぶりの方はお久しぶりです。会いたかったです。

作者の南風十羽と申します。以後よろしくお願いします。

さて、この作品は私が三年程前に執筆していた小説の改訂版となっております。

設定・展開などを練り直し、しっかりとした作品にしたいと考え、このように新連載という形を取らせていただきました。

また自身の受験や新生活の影響を受け、しばらくの間なろうでの活動を休止しておりました。

ですがしばらく活動しない間に、私の中の創作への想像力が枯渇していき、度々寂しい気分になったりしておりました。

今後の展開ですが、とりあえず本筋の第一章までは、なんとなくですが見通しを立てております。


以下、作品を読むにあたっての注意など。

・この作品は文章量の下限を定めておりません。

・よって作者の気分により、文章量が短い話もあれば、逆に長い話もあったりするかもしれません。

・また作画崩壊ならぬ文体崩壊などの恐れもあります。

・以前に投稿した話を修正した物は、作業に時間をかけただけ丁寧になってる(と思いたい)のですが、新規作成の話や何度も修正してない話は粗が目立つかもしれません。

何卒ご了承願います。


では、リニューアルオープンした【たそがれ寮。】を、どうぞお楽しみ下さい。

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