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彼女との出会いは高1の春だった

掲載日:2026/09/30

タイトルを変更しました。

 彼女との出会いは高1の春だった。




 …………




「ん?」



 俺は弱々しい声に足を止めた。

 声が聞こえてきた辺りに視線を向ける。声の主は見えないが確かに聞こえる。


 弱々しい声が気になった俺は慎重に歩を進め、声の主を探す。


 まだ春先だというのに暖かい日が続き周囲に繁茂する雑草の背が予想以上に高かった。



「……っ!」



 足を止め顔をしかめる俺。

 視線の先には、草に隠れる様に横たわる白猫。白い身体は血に濡れていた。タヌキかハクビシンにでも襲われたのだろう。



『……ニャン』



 白猫は最後の力を振り絞る様に鳴くと顔を自身にまとわりつき必死に鳴く1匹の子猫に向け、その顔を地につける。母猫であったのだろう彼女はそれ以降動くことは無かった。

 必死に子を守ったのだろう母猫と彼女にすがり付き弱々しく無き続ける子猫を交互に見つめる俺。



「なあ、お前さん。うちに来るか?」


『……ニャ』



 子猫は母猫と俺を交互に見つめてからひと声鳴くと……




 …………




 子猫は俺めがけて元(・)気(・)に(・)飛びかかる。薄いピンク色が混じった白毛が風に靡き……徐々に大(・)き(・)く(・)な(・)っ(・)て(・)い(・)く(・)子(・)猫(・)。



「えっ?」



 予想外の事態に混乱する俺の視界一杯に広がる薄ピンクの……



「おっぶぅぅっ!」



 息が出来ず、こ(・)こ(・)で(・)目(・)を(・)覚(・)ま(・)す(・)俺(・)。



『ニャゴ?』


「桃音さんや毎朝顔に乗るのはやめて頂けないでしょうか?」


『…………』



 猫と見つめ合う俺。このまま無言の時が過ぎるかと思いきや、猫は顔を左右に振ると自身の寝床へと戻り毛繕いをはじめる。



「たのむよ。桃音さん」



 ベッドから起き上がる俺。



「……しかし、元気になってよかったな」



 桃音を見つめてしみじみとつぶやく。

 桃音はひと月前に空き地で保護した子猫であった。俺はあの日、母猫から託されたと思っている。




 …………




 怪我をして力尽きる猫もいれば運良く拾われる猫もいる。


 そして……




 …………




「ねえ。クロちゃん。

 どこかで見なかった?」


「クロちゃん?」


「そう。この子なんだけど行方不明なの」



 隣のクラスの女子が俺のクラスの女子グループに手にしたスマホを見せる。



「かわいい」


「私は見たこと無いわね」


「あたしも無いかな?」


「そう……」



 目撃情報が得られずに落ち込む隣のクラスの女子。



「あたしらも猫を見掛けたら連絡するから元気だしな」



 励ましの言葉に小さく微笑む隣のクラスの女子。



「ありがとう」


「なあ、猫ってどんな猫なんだ?」



 女子グループとの会話が終わったとみるやクラスの男子が彼女を取り囲む。お近づきになりたいとの下心が丸見えである。

 だが、無理もないと……少しだけだが……そう。少しだけだが、俺も彼等の気持ちが分からんでもない。

 彼女は才色兼備のお嬢様。政界にも影響力を持つ橘家の後継者。誰もが彼女と友達になりたいと思うであろう人物ナンバーワン。ちなみに名は橘銀香と言う。



「……あー。似た猫なら昨日……見掛けたと思う」


「ほ、本当ですか!」



 不意に男子生徒の1人がつぶやいた言葉に橘が詰め寄り、彼に聞き返す。



「よかったら案内……」



 あっ。

 あいつ適当に言ってる。


 橘に詰め寄られだらしない表情を浮かべる男子生徒を見つめ、彼の嘘を見破った。

 だって、橘(・)の(・)ス(・)マ(・)ホ(・)を(・)1(・)度(・)も(・)見(・)ず(・)に(・)言ったのだから……

 クロちゃんの捜索に必死な橘はまったく気付いていない。


 おそらく彼は猫の事をきっかけに橘とお近づきになる計画なのだろう。

 橘とお近づきになろう作戦を察したのは俺だけではなかった。彼女の周囲に群がう男子の半数が彼と同じ様な事を口々に言い始める。



「えっ」



 橘は一瞬だけ戸惑いの表情を浮かべ、数秒後その表情を悲しみや怒り等をごちゃ混ぜにしたものに変えた。彼女は周囲を見渡して理解したのだ……彼等の嘘を。



「……ひどい。最低よ」



 橘の言葉に、アピール合戦を繰り広げていた男子生徒達が凍りつく。橘以外の女子生徒達からも冷たい視線が彼等に向けられていた。




 …………




 目の前で不機嫌オーラ全開の彼女に俺はスマホを向け、



「ご機嫌斜めなところも可愛すぎる」



 言ってシャッターをきる。

 スマホの画面を見て俺は思わずにやけてしまう。予想以上に可愛く撮れた。

 スマホの画面の中にはふてくされた仕草でカメラ目線の桃音。

 そう。俺は帰宅後に速攻で桃音を撮影したのだ。爆睡していたところを俺が帰宅した際の物音におこされて彼女はご機嫌斜めなのだ。

 今更ではあるが、桃音は女の子だった。



「ごめんよ」



 俺はスマホを仕舞い、



「チュールあげるから機嫌をなおして……な」



 チュールをカバンから取り出し、桃音に語りかける。すると彼女はヤレヤレと寝床から立ち上がり、こちらに向けて歩き出す。その尻尾はゆらゆらと左右に揺れ、ご機嫌なステップを踏む桃音の姿にほっこりする俺。

 美味しそうにチュールを舐めて口に運ぶ桃音。

 ここまでが俺が帰宅してからの日々の一連の流だ。



 …………



 それから少しだけ時は経ち、季節は初夏。5月中旬の今日は学年のオリエンテーション。クラス対抗スポーツ大会当日。

 出番の競技以外は比較的自由となる……イベントだ。

 真面目に応援するもよし、どこか物陰でゲームや賭けトランプをやるもよし……賭けトランプはバレないようにしなければならないが……

 そんな中で俺はスマホの写真をニコニコと観賞していた。無論のこと被写体は桃音だ。

 しかし、沼ったものだ。桃音と出会った日の俺が今の俺を見たら目を丸くして驚くだろう。


 ぼっちでスマホをポヤポヤと眺めていたのが気になったのだろうか……



「何をなさっているの?」


「っ!」



 不意に声をかけられ、驚きでスマホが手からこぼれ落ちてしまう。



「ああっ!」



 俺は慌てて地に落としたスマホを回収して状態を確かめる。



「…………」


「ごめんなさい。私が急に声をかけたせいで……」



 スマホの確認を終えて俺は謝る彼女――橘に顔を向けて、



「落としたのは俺が悪い。それに画面も割れてないから……気にしないで」



 スマホを見せて笑う俺に橘はほっと息を吐き出し、何気なくスマホの画面に視線を向け、はじけた様に歩み寄り、スマホを持つ俺の両手を握り締め、スマホ画面を凝視する。



「クロちゃん?」


「え?」


「……凄く似ているけど良く見たら違うわね」



 言って落胆した表情を浮かべて俺の手を放す。



 クロちゃん?

 似ている?

 桃音が?



 橘の言葉に脳がバグる俺。



「クロちゃん……白猫なのに……名前がクロちゃん?」



 戸惑う俺に橘は笑うとポケットから自身のスマホを取り出すとクロちゃんの写真を呼び出し、俺に見せてくれる。

 確かに白猫だ。どこかで見たことある猫の様な気がする。


 記憶の引き出しを漁る俺の目の前で彼女は写真をスライドしていき……生まれたばかりの子猫達が母猫に甘える写真で手を止め、1匹の黒猫を指差し告げる。



「この子がクロちゃんなの。信じられないかもしれないけどクロちゃんは生まれたばかりの頃は黒かったの。成長するにつれて純白の毛並みに変わっていったのよ」



 橘の言葉を聞きながら俺は考える。


 クロちゃんは成猫で桃音は子猫。だからクロちゃんは桃音ではない。なら……




 …………




「お待たせしました」



 不意に背後から声をかけられ振り返る俺。どこか沈んだ声の主は橘だ。その手には一輪の花。

 俺達は駅前で待ち合わせをしていた。


 俺の予想が当たっていた。クロちゃんは桃音の親だったのだ。決め手となったのはクロちゃんが着けていた首輪の写真。首輪は特注品だったから桃音の飼い主を見付ける手がかりになるかもと撮影していたのだ。



「行きましょう」


「こっちです」




 …………




「ここに……」



 橘はつぶやきにその場にしゃがみこむ。彼女の前には拳大の石。クロちゃんのお墓だ。

 持参した花を石の前に置き、10分程橘はお墓に語りかけると立ち上がり、ペコリと頭を下げる。



「クロちゃんのお墓。ありがとうございました」



 そして俺を見つめ、



「桃音ちゃんのことですが……」


「お返ししなければ……」



 動揺しつつ尋ねる俺に橘は俺のスマホが入っているポケットに目を向けて。



「正直、迷っています。

 そこで、これから桃音ちゃんに会いに行っていいですか?」


「えっ!」




 …………




「ただいま」


「おじゃまします」


「あら、まぁ」



 我が家の玄関を開けたら母さんと鉢合わせしてしまった。

 母さんは俺の隣に立つ橘を見つめてニコリと笑う。



「母さん。橘さんとはそういうのじゃないからな。桃音の親の飼い主さんだよ」



 母さんに説明してから橘を部屋へと案内する。




 …………




「ただいま」


『ニャ…ニャン!』



 言って俺達は部屋に入る。

 何時も通り不機嫌そうに顔を上げた桃音と橘の目があい、寝床から飛び起き、俺にしがみつく桃音。クロちゃんを喪った体験が桃音を極度の怖がりにしてしまったのだ。

 慌てて飛び付いたからだろう桃音の爪が服を貫通して地味に痛い。


 桃音の背を優しく撫でながら、



「彼女はお前さんのお母さんの飼い主さんだよ」


『ニャン?』



 俺の言葉に顔を橘に向け、見つめ合う橘と桃音。


 やがて橘はため息を吐くと視線を俺に移して口を開いた。



「ずいぶん懐いているわね」


『ニャン♪』



 橘の言葉に返事をするかのようにひと鳴きする。



「決めましたわ。

 桃音ちゃんは君に任せようと思うのだけれどいいかしら?」


「いいのか?」



 聞き返す俺に橘は苦笑しながら頷く。



「ここまで懐いているのに引き離すのは流石にかわいそうでしょ」



 橘は言うと桃音の頭を優しく撫でる。



「桃音ちゃんはいい人に見付けてもらえたね」


『ニャン♪』



 桃音は嬉しそうに鳴いた。




 …………




「また、桃音ちゃんに会いに来ていいかな?」



 帰り際、橘が俺に向けて言った言葉に俺は動揺する。そんな俺に彼女は悲しそうな表情を浮かべると。



「ダメ……かな?」



 上目遣いの破壊力に俺は思わずのけ反り、何度も頷く。



「ダメじゃないダメじゃない。いつでも来ていい……けど、女性が1人で男の家に何度も来るのは変な噂の……」


「私は桃音ちゃんに会いたいの。

 それに、君は私に変な事をするつもりなの?」



 橘の言葉に慌てて首を左右に振り、



「そんなつもりは無いよ」


「なら問題ないでしょ」



 なんだかんだと押しきられた結果、橘は週1以上のペースで我が家を訪れることとなる。




 …………



 橘の我が家への来訪は高3の冬である現在まで途切れること無く続いている。


 だがこの関係も終わりが近付いている。


 高校を卒業したらお互いの進路は変わりこれまで通りとはいかなくなるだろう。この3年という月日は俺の中にある橘への想いは強固なものとなっていた。

 今日、橘は桃音と遊ぶ為に我が家に来る予定だ。



 この秘した気持ちを伝えてしまうと今の関係が壊れてしまう恐怖から踏み出せなかった1歩を踏み出して見ようと思う。




 …………




 ちなみに橘に気持ちを伝えた際の彼女の最初のリアクションは深いため息であった。



 俺の告白の結果は……

最後までお読みいただきありがとうございます。






スマホで書いています。書き込み中に誤って上書きする前にページの更新をかけてしまい半分以上が消えてしまいました。


茫然自失です。この作品は下書き無いので余計にショックでした。








最後に作風はだいぶ変わりますが、




作品【自業自得】




もよろしくお願いします。

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