last scene【靴を脱ぎ棄てて 前半】
それから、ニューヨークでの全ての資金を稼ぐため、
宇崎は「お好み焼き 猩々」に就職して真面目に働いた。
あたしは中目黒にある「代表取締役 榊えみり」の
新会社に再就職することも考えたが、
榊えみりは昔、旦那と寝た女。そんな女の部下として働くのは違う。
「今の自分自身」を最大限に生かす仕事がしたかったので、
芸能事務所に所属し、雑誌やテレビなどで活躍する、
口が達者なカリスマモデル、芸名:宇崎みうなとして働いた。
榊えみりの新会社の社名は「NOT FOR SALE」
「非売品」という意味だが、だったら売るなと言いたい。
「NOT FOR SALE」は、「DIY!」のような
「自社制作のアパレルブランド会社」ではなく、
今流行りの「アウトレット業者」だからだ。
「商品開発部・制作部」のフロアはもはや「倉庫」と化していて、
一流から三流以下まで、いろいろなブランドから
「キズ物、ハンパ物」という名目の
「バーゲンで売れ残ったダサい服」が大量に置いてあり、
元総務部社員、元販売部社員は全員
「若い女だから」
というだけで、南大沢や、南町田などの
東京郊外のアウトレットモールで強制的に店長をやらされ、
三ヵ月ノルマを達成できない場合には御殿場まで飛ばされる。
店員は全員アルバイト。二十五歳の誕生日どころか、
ほぼ全員たったの一日で辞表も出さず
「辞めます」とも言わずに消えてゆく。
理由はほとんどこう。
「丸一日立ってる体力ないから、
もっとお給料のいい、事務のお仕事探します」
もちろん、末端の事務員は全員「ハケン」を使っている始末。
しかも「NOT FOR SALE」で売り子のバイトを
していた女が「NOT FOR SALE」総務部に
派遣会社からやって来て
「売り子の仕事は疲れるので、派遣業者に登録したら、
なぜかここに連れてこられましたけど、何か?」
とほざき、面接担当者が渋々「明日から来てください」
というようなことも実際にあったようだ。
当然「元社員」「新入社員」「ハケン」「アルバイト」
すべての定着率が悪く、回転寿司屋のごとくコロコロ人材が変わる。
榊えみりは唯一のチャームポイント「プライド」を捨てて
「NOT FOR SALE」を「薄利多売」の会社にしたようだ。
人件費を削りまくっている会社に優良企業はない。
ネットのアングラ掲示板にも
「【悪の秘密結社】NOT FOR SALE
だけには就職すんな【第三十六章】」
などというスレが乱立している。
榊えみりは目先の利益だけに囚われて、本来の目的
「自社ブランドの本当に良い商品を、
それなりの値段で箔をつけて売る」
ことを忘れてしまっているようだ。




