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vol.75【エゴと愛情の狭間 第3話】

「自分で『酷いこと』って自覚してるのに、

どうしてサニタリーショーツまで極めようとしたんですか?」


「それは……ミューナにはグロい話だけど、

美大時代に付き合ってた女の家に泊まりに行ったとき、

彼女が突然生理になっちゃって。


まあ、お互い隠すところがない付き合いだったから、

あいつ、俺の目の前で、急いでクローゼット開けて

サニタリーショーツ履いてナプキンとタンポンつけたんだけど……」


「つけたんだけど?」

「ミューナ、どうしても喋らなきゃダメ?」


「ダメです」

「わかったよ……汚かったんだ、とにかく汚かった」


「ショーツが?」

「そう。木綿でできたダサダサのやつで、ところどころに、

洗濯じゃ落ちないのかね? シミがいっぱいついてた。

さすがにその時の感想は彼女には直接言えなかったけど

『完璧なサニタリーショーツをつくるのも俺の使命』

って勝手に思った。でも、いまだに鬼門だし、商品化できねえよ」


「宇崎さん」

「ん?」


「宇崎さんとはじめて会ったときに貰った、

ベージュのサニタリーショーツって、

試作品だって言ってましたけど、まだ試作品の段階なんですか?」

「そうだけど?」


「あたし、あれはすでに商品化されてるものだとばかり思ってた……」

「え? どうして?」


「だって、今まで使ったサニタリーショーツの中で、

一番使いやすいし。生理が来るたびに、

あたし、あれ愛用してたんですけど……」

「マジ? え! なんでもっと早く教えてくれなかったの?」


「いや、だって、女同士でもサニタリーショーツの

情報交換なんてしないし、サニタリーショーツって

前面に出して売る商品じゃないし、

ましてや宇崎さんがパンツ屋だからって、

男の人とそういう話するなんてありえない……」

「俺、サニタリーショーツ、完璧につくれてたんだ」


「少なくとも、あたしがもらったのは、完璧でした」

「そうか、そうか……」



宇崎は、いきなり泣き出した。パンツ屋の店長だからといって、

男がサニタリーショーツまで極める必要はないと思っていた。

それなのに、宇崎は完璧なサニタリーショーツをつくる事ができた、

ただそれだけで、あたしの目の前で号泣している。


パンツをつくるために、パンツを売るために、

パンツに生涯をかけるために生まれてきた男。

パンツを極めるために生まれてきた業の深い男。

いい加減なところばかり目立つけど、根がクソ真面目な男。

完璧なサニタリーショーツをつくれたことを知っただけで、女の目の前で号泣する男。


次の瞬間、あたしは宇崎を思いっきり抱きしめた。

愛おしくて愛おしくて抱きしめずにはいられなかった。

あたしは生まれてはじめて、自分から男の胸に抱きついた。


その日あたしは、モデルとしてのはじめてのギャラである、

水色に赤いハートのアップリケの、

もはやブカブカのキングLサイズのブラジャーと

パンティをあらかじめ身につけていた。


宇崎の巧みなリードによって、二十五の誕生日を前に、

あたしはやっとバージンを捨てた。

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