vol.74【エゴと愛情の狭間 第2話】
宇崎は、あたしと知り合う前も、知り合ってからもずっと病んでいた。
今も病んでいる。
淡々と昔のことを話す宇崎の表情は暗かった。
あたしは、宇崎の笑う顔が見たかったので、話題を切り替えた。
「宇崎さんが、はじめてパンツをつくったのは何歳のときですか?」
宇崎は口元に微笑を浮かべながら矢のように話しはじめた。
「パンツは物心ついた時からつくってたな。
はじめてつくったのっていつだろ?
五歳ぐらいのときかな?
母親が洋裁得意で、暇さえあれば電動ミシンに張り付いててさ
『俺もなんかつくれねーかな?
そうだ! 新しいパンツ欲しいからパンツつくろう!』ってね。
ミシンの使い方はもちろん、布とか糸とか、
どうすりゃいいかなんてわかんないけど、
とりあえずミシンいじくって、パンツらしきものが
できたときには『やったー!』って思ったけど、
そのときミシンぶっ壊しちゃったみたいで、
後で母親にグーで脳天殴られて、メチャクチャ叱られた」
「ははははは! すごいですね。
五歳のときからパンツつくってたなんて」
「母親が理解のある人でさ『あんたもミシン覚えたいの?』
って言われて、その頃からミシンの英才教育受けてた。
自分で着るための浴衣とか、シャツとか、パジャマとかね。
二人で下町の布屋に行って、好きな柄選ばせてもらったり。
おかげで、布屋のバアチャンに顔が割れたよ
『あらボク~、また布買いに来たの? 偉いわねぇどれにする?』
って言いながら、顔クシャクシャにしてね」
「きっと、宇崎さんのことが、孫みたいにかわいかったんでしょうね」
「あはははは! そういやよくアメ玉もらったな、
あのバアチャンに。まあ、パンツ屋になったのは、
やっぱり生まれてはじめてミシンいじくって脳天殴られたときの
衝撃が残ってたのかねえ? 命の次にミシン大事にしてたもんな。
将来なにになりたいかなんて、
けっこういい加減なことがキッカケだったりするし」
「それは、お母さんが大切にしてたミシンを
壊したときにつくったものが、たまたまパンツだったから?」
「そう、メチャクチャいい加減でしょ?」
「それで、二人の女がいたら、派手な下着と地味な下着を
プレゼントして、地味な方を手に取った女と付き合っていたと」
「地味な方は、全部サニタリーショーツだったんだ」
「えっ?」
「サニタリーショーツだけは、未だにうまくつくれない。
だって俺、男だもん。朝立ちや夢精はしたことあるけど、
生理になったことはないからさ。サニタリーショーツを
完璧につくるために女と付き合ってたようなもんだよ、
酷いよなぁ、我ながら」




