vol.73【エゴと愛情の狭間 第1話】
宇崎は学生時代、同じ美大に通う女と交際していた。
センスと行動力は抜群だったが、彼女はルックスに少々難があった。
美大卒業後、彼女は単身ニューヨークに行って
ブティックをオープンすると意気込んでいたが、
アメリカでは、いくらセンスがよくても、
それなりのルックスでないと成功しない。
それを宇崎は懇々と説明したものの、
彼女はそのままのルックスで旅立ってしまった。
宇崎はマメに国際電話で連絡を取っていたが、
あるとき急に音信不通になって、それっきりだという。
「日本だけでヒットした女性歌手で、
アメリカでも成功した奴なんて昔も今もいないだろ?
似たようなもんだよ、それと」
宇崎があたしを綺麗にしようと思ったきっかけは、
昔愛した女の面影を引くあたしを、
自らの手で綺麗にしたいというエゴだった。
長年付き合った彼女と音信不通になった後、
宇崎はショックでいろいろな女と寝まくった。
すでに大手下着メーカーにデザイナーとして就職していた宇崎だったが、
同じ会社の女とも手当たり次第に寝ていた宇崎は、
ある女からの内部告発で、
下着メーカーをたった一年足らずで解雇された。
それからの宇崎は、長い間恋人をつくらず
「レパブリカ」を出店する資金を貯めるために、
昼は道路工事、夜はホストクラブで働いた。
もちろん、どんな客とも寝た。
資金は二年ほどで貯まったが、当時の宇崎はすぐには
「レパブリカ」の準備を始めることができなかった。
慢性的な睡眠不足と、道路工事の重労働、
さらに肉体や精神を切り売りする上、大量の酒を飲まないと
仕事にならないホストクラブ。
身も心もボロボロだった当時二十五歳の宇崎は、
資金にはほとんど手をつけず、三ヶ月ほど、
この部屋から一歩も出ない生活を送り、
ベッドに横たわり、体と精神が元に戻るまで、
誰とも会わずにたった一人でとにかく寝ていた。
食事は全てデリバリーで済ませていたという。
三ヶ月の間、飽きるまで寝た宇崎は、ようやく「レパブリカ」の準備を始めた。
最初の準備は翔君と渋谷に行き、カフェバーで二人組の女を
キャッチセールスのようにナンパし、
派手な下着と地味な下着をその場でプレゼントして、
地味な下着を手に取った女と付き合うこと。
そのカフェバーはあたしと麻巳子がはじめて
二人で行ったのと同じ店。
あたしも「地味な下着を手に取った」大勢の女の一人だった。
「レパブリカ」はとっくにオープンしていたが、
あたしに知り合ってから宇崎はそれをキッパリやめたという。




