vol.69【職業に貴賎なし 第7話】
♪プルル~♪プルル~♪プルル~♪プルル~。
店の電話が鳴った。「DIY」の着信音と同じ。
「使い回しだ」と言ったら小澤店長に「エコロジーだ」と返された。
「はい。猩々です……なんだ、翔君また愚痴?
ごめんね。今立て込んでるから
夜にでも僕の携帯に電話して、じゃあね~!」
ガチャ。
「え? 翔君が小澤社長に愚痴?」
「うん。この店と引き換えに夢をかなえたのはいいんだけど、
音楽業界ってなかなか思い通りにいかないみたいでね。
『イメージ変えろって言われた』とか
『バンド名変えろって言われた』とか、
レコード会社の人間と衝突するたびに、
この店に電話して来るんだよ。矛盾してるよね」
「しょうがないですよぉ。翔はいつまでたってもノンポリですから」
「そーそーそーそー。翔君は本名が悪いよね」
「ははははは! 浜井翔って『はぁ、まあいいっしょ』ですからね。
翔の親って名前つけるとき『音読』しなかったんでしょうかねえ?
やっと長年の疑問が解けましたよ」
確かに宇崎の言う通りだ。浜井翔=はぁ、まあいいっしょ……。
「僕、お好み焼き大好きでね。だから『DIY』が
潰れかけてる時にはじめてここ来たら、
翔君のやっつけ仕事っぷりに頭来て『お好み焼き』で
一時間くらい議論しちゃってさあ」
「お好み焼きで議論?」
「翔君さあ『俺が目指してるのはバンドだから、
ここの店は収入源として割り切ってる』ってはっきり言ったんだよね。
頭来て頭来て、僕『本当においしいお好み焼きっていうのは、
マヨネーズだのタレだのかけなくてもおいしいの!』って怒鳴ったら
『お好み焼きっていうのはマヨネーズとタレを大量にかければ
誰が焼いても美味いんだ! そんなにオッサンお好み焼きに
こだわってるなら、デビュー決まってるからこんな店くれてやるよ!』
っていきがっちゃって。で、ありがたく頂戴したわけ」
「社長……」
「なに? 高木さん。あ、店長って呼んで」
「もしかしてこのお店、マヨネーズとタレそのものがないんですか?」
「ないよ。青のりもない。味がないからあんまり意味ないでしょ?
歯にくっついちゃうしね。でもおいしいよ」
「ミューナさん! 本当に店長の焼くお好み焼きは
なにもつけなくてもおいしいんです!」
「私達も、はじめて来たときに『なにもつけないで食べるの?』
ってビックリしましたけど、マジでおいしいですから!
賄いが出るから二人でここに就職したようなものです!」
「就職? 彼女達、バイトじゃないんですか?」
「彼女達はれっきとしたここの社員だよ。
ちゃんと保険にも加入させてるし」
「あ、あのぅ……彼女達のお給料聞いちゃていいですか?」
「手取りで二十三万くらいはあげてるよね~」
「店長~! それくらい貰わないと割に合わないですよ~。
早朝から夜客がいなくなるまで働かされるんですから」
「え? 何時ぐらいまで働くの?」
「まあ、日によって違うけど、平日だと夜十時くらいかな~。
週末だと気がついたら日付が変わってますもんね。
でも、時間忘れるほど楽しいですよ。ここで働くの」
「まあ、ここいろんな雑誌に載っちゃったしね。
大型連休になると大阪とか九州からとかもお客さん来るよ。
さすがに労働基準法に違反するから、最近は夜七時キッカリに
行列止めるようにしてる。【今日はここで終わりです】っていう
デッカイ看板までつくって。あ、もう店の外に十人ぐらい並んでる」
「じゃあ、俺達そろそろ帰ります」
「え! 食べていかないの? ウチのお好み焼き」
「俺達いると、営業妨害になっちゃうんで……」
「そんなことないですよぉ! 本当に美味しいんですよ!
タダでいいんで食べてってくださいよ、店長のつくったお好み焼き」
「いや、帰ります……」
「ごめんね~! また来てね~!」
あたしを「ドッキリ」させようと思った宇崎が
小澤店長に逆ドッキリされてしまい、
宇崎はガックリと肩を落として店を出た。
「こんなはずじゃなかったのにな」
「あたしも、小澤社長のキレっぷりに疲れました……」
「ミューナ、俺のウチ来る?」
「はい」
あたし達はモヤイまで歩くと、
タクシーを拾って宇崎の住むマンションに行った。




