vol.67【職業に貴賎なし 第5話】
とにかく「黒」が似合い、原色の服を着ている
女の子よりも目立ってしまう「榊えみりちゃん」のことが
入社前に社員の間で話題になり、販売員として入社する直前に、
社名を「DIY! OUT OF BLACK」に変え
黒い服を前面に売り出すことが決定し、
急きょ「三年以上服飾会社で『デザイン』
『制作』の経験のある方」を、求人雑誌や新聞で募集したところ、
百人を越える応募者が来たらしい。
「『将来性のある人』より『即戦力』が欲しかったんだ。
でも志望者が多すぎてね。面接でおもいっきりふるい落としたんだよ。
『黒い服をつくったことがありますか?』って聞いて
『ありません』と答えた人はその場で不合格。
『あります』とか『黒はつくったことはありませんが、
是非挑戦してみたいです』って答えた人には
『この会社に入ったらどんな黒をつくりたいですか?』ってすぐに聞いて、
安易に『スーツ』『コート』って答えた人は即不合格。
『勝負下着、もちろんガーターベルト』
『ヴィヴィアン・リーが、着たとたんにクルクル踊るような喪服』
『昔よく着てた特攻服を黒のエナメルでつくりたいですね』
『バニーガールとSMクラブの女王様を混ぜたようなとにかくエロい服』
なんていう、突拍子もない答えをした人はその場で合格。
一見ムチャクチャに見えるけど、だいたい百人いたうちのほとんどが
『スーツ』『コート』って答えてて、
たまたま四人が無茶なこと答えてただけなんだよ」
「で、その四人を採用したと?」
「そう。語弊があるけど、普通の人より『変な人』が欲しくて。
その時思ったんだよ。『ああ、デザイナーも百人いたら
九十六人は普通の人なんだなあ』って。
『変な人を採用する』っていうスタンスは会社が潰れるまで
ずっと変わらなかったね。どの部署でも」
「ああ、だから麻巳子じゃなくてあたしを採ったんですね……」
「うーん、まあそういうことだね。でもねぇ、
榊さんが『DIY』の服をつくっていた時に、
売れていたんだけどお客さんがみんな『普通の人』になっちゃった。
そこでやっと、会社を大きくするには、創り手が『変な人』でも
『普通』のお客さんに受け入れられないとダメだってことに気がついてね。
その頃周りの人間によく言われたね
『小澤さんと榊さんは結束固いですね』って。
『不倫してる』とかウワサされて。
でもね、何年か我慢してたら気がついたら僕が社長になってて、
榊さんが部長になってて、会社が大きくなってた」
「やっぱ、小澤社長が一番『変な人』なんですね。
気がついたら出世していたなんて……」
「僕、いまだに独身だしね」
「へ?」
「うん。モーレツ社員してたら、いつの間にか
適齢期過ぎちゃって、誰も僕と結婚してくれないの。
だから若い社員は全員僕の子供に見えちゃうんだよね」
「え! 店長って独身だったんですか? あ、あたし立候補します!」
「あたしも! 店長の奥方に立候補いたします!」
「ダーメ。かわいい子供とは結婚しません」
「えーーーーーーーっ!」
「っていうかさあ……あーあ、彼女達の口癖うつっちゃった。
僕は至って真面目に仕事をしていただけで、
榊さんとはあまり接点がなかったのにね。
『不倫してる』なんてウワサを流すのはたいてい
『私って、変わってるからぁ~!』って自分の口で言っちゃう
普通の人だったね。榊さんはそういう人には天罰を与えていたよ。
僕は遠くから榊さんの活躍ぶりを見守るのが楽しかっただけなのにねえ」
そういえば、榊えみりは『伝説』の中で
『洋服には流行り廃りがあるから、私より若い子がつくる
洋服の方が売れる時代になった』と言っていた。
たぶんその頃から『原色』ブームが廃れ、
ギャル向け雑誌にも『黒い服』がたくさん掲載されるようになり
『黒のリクルートスーツに、白いシャツを合わせて就職活動する女子大生』
をたくさん街で見かけるようになったのだろう。




