vol.65【職業に貴賎なし 第3話】
ガラッ!
「おはようございます。野菜届けに来ました。
今日のキャベツは超新鮮ですよ~!」
重そうな野菜の入ったダンボールを持った女が入ってきた。声が……。
「麻巳子!」
「みうな? なんでここにいるの?」
「麻巳子こそ!」
「悪徳エステの勧誘員」だった頃のルックスはどこへやら。
服装はジャージにスニーカー。中学生の頃にタイムスリップ
したような雰囲気だが、最低限の化粧はしっかりしている。
「いやあ、翔君と別れてからさあ、元の鞘に納まって」
「あの、ワセダの男?」
「うん、結婚した。ホラ」
麻巳子の左手薬指には、真新しい結婚指輪。カルティエの三連リングだ。
「で、なんでそんな格好で、キャベツ運んでるの……」
「仕事だもん。旦那の実家が千葉の農家でさ。
主婦やりながら家の手伝いしてるの。
この辺の店が全部旦那の実家と契約してくれてね。
この指輪もなにをやってもずり落ちないようにって旦那がくれた。
契約農家って結構儲かるのよ」
「え! ここの契約農家なの?」
「うん。あ、ゴメン。みうなと会えたのは嬉しいけど、
ゆっくり喋ってる暇ないんだ。次の店にソッコー野菜届けないと。
またメールする、じゃあね~!」
麻巳子はすぐに店から出て行ってしまった。
遠くの方で軽トラックが走り去る音がした。
二人の店員が、ダンボールに駆け寄り、伝票を確認して
キャベツ、ネギ、もやしなどの数量を数えている。
二人の息はぴったり合っている。ツーカーだ。
「宇崎さん、どういうことですか……」
「あ、店長が出勤したみたいだ。裏口から」
店の奥の扉が閉まる音がした。ガサゴソ音がする。
「なんで表口から来ないんですかね?」
「従業員は裏口から入店するのが基本だろ?
今ごろ制服に着替えてるんだろうよ」
やがて「お好み焼き 猩々」の「店長」が厨房にやってきた。
「店長」の顔を見たとたん、咄嗟に大声で叫んでしまった。
「しゃちょーーーーーーーーーーーー!」




