vol.6【変化と出会い 第3話】
月曜日、
会社に行くと、総務部女十二人全員の肌がツルツルになっていた。
三十三歳のお局様えみり部長も例外ではない。
含み笑いをしていると、あたし宛に電話がかかってきた。
「高木さ~ん『レパブリカ』の宇崎さんって方から。二番です」
(う、宇崎さん……なんだろ? デートだったりして)
「みうなさん?」
「ああ、宇崎さん、こないだはどうもでした」
「みうなさん、今日仕事終わったら時間あります?」
「ああ、はい。うちの会社は残業もないので……」
「仕事終わったら渋谷まで出てこれます? ウチの店に見学に来てほしくて」
「見学……ですか」
「ヤダ?」
「あああああ、もちろんかまいませんよ」
「ありがとう、待ってます」
ガチャ。
(見学? なんのつもりなんだろう……)
その日仕事を終えると、宇崎の名詞の裏に書いてある
地図を頼りに「レパブリカ」に出向いた。
「レパブリカ」はセンター街の奥の、そのまた奥にある、
外国人が経営しているような怪しいアパレルショップが立ち並ぶ
通りの一角にあった。こんなとこ普段は来ない。
あたしは外国人と目が合うたびに一生懸命目を伏せていた。
そしてようやく「レパブリカ」に着いた。
「こ、こんばんわぁ」
「ああ、みうなさん。来てくれたんですね」
さすがに月曜日の夜なので、店内には客の姿はなかった。
あたしは店内をグルリと見回した。
「DIY 渋谷09店」の半分くらいだろうか。
売り場面積がかなり狭い。しかし、売り物が場所をとらない
パンツなだけあって、品揃えは充実していた。
男物六割、女物四割といったところ。
内装は女一人でも入れるような感じで
「雑貨屋に下着も置いてある」といった雰囲気。
肝心の商品のパンツはどれも原色で、
いかにも若い子向けの「勝負下着」っぽい。デザインもかなり凝っている。
「どうです? みうなさん、感想は」
「この界隈にある店にしては、あんまりおどろおどろしくなくて、
女一人でも気軽に入れるってとこですかね」
「でもねえ、やっぱりこの辺の店には、女の子は一人では来ないねえ」
「そうですかね? 普通のランジェリーショップよりも
デザインが個性的だし、
このお店じゃないと買えないっていうものが多いですよね」
「そこがウリなんだけどね~。なかなか理解してくれる
お客さんがいなくって、毎月カツカツなんだ」
「宇崎さん、この前、仕入れからデザインから経営から、
一人でやってるって言ってましたよね?
これだけの商品を一人で全部つくって経営も、っていうと大変でしょう?」
「もちろんね。開店からレジ締めまでやってくれる売り子が
一人いると楽なんだけど。給料も出せない状態でさ。
あと、本当は表通りに出店したかったんだけど、
家賃払えないからこういうとこしか借りられないし。
寝る時間なんて四時間もあればいい方」
「大変なんですね……このお店だったら、
翔君とかが売り子やれば絶対ハマるのに」
「ああ、あいつならハマるよね。あ、話し変わるけど、
今日はみうなさんに相談があって呼んだんだ」
「ハァ」
「実は『DIY』と提携して、女性用の下着を置かせてもらえないかな? と思ってね」
「う~ん、そうだったんですか……」
あたしはディスプレイに飾ってある、水色を下地にして、
アップリケのように小さな赤いハートマークがたくさん
縫い付けてあるブラジャーとパンティの上下を見ながら考えた。
かわいい。たしかにギャル向けではある。
しかし「DIY! OUT OF BLACK」という名のとおり、
ウチのブランドは黒とモノトーンを主体とした洋服ばかりだ。
こんな派手な原色の下着を置くには少々ミスマッチである。
あたしはそのことを素直に宇崎に伝えた。
「ウチのブランドは、名前のとおり黒がコンセプトだから、
こういう『勝負!』って感じの原色の下着は
ちょっと難しいんじゃないかな……」
「でもさあ『DIY』を着るような女の子ってのは、
外見がシックでも、下着は派手にしたいものなんじゃない?」
「あー」
宇崎の言うことも、もっともだと思った。
たしかにアウターに黒を着れば、インナーに何色の下着を
付けようがひびかない。普通の下着だけではなく、
ちゃんと「見せパン」「見せブラジャー」という感じの商品もある。
今まで、そういうことに全く縁のないあたしは、
そんな単純なことにも気が付かなかった。
ただ、理屈では正しくても、黒い洋服ばかり置いてある店に
原色の下着を置くのは、
吉と出るか、凶と出るか、とにかくどう転ぶかがわからない。
「吉と出るか、凶と出るか、か……わかった。みうなさん、ありがとう。
今日のみうなさんの意見を参考にさせてもらって、
後日『DIY』に企画書をFAXしますよ。
プレゼンのときは、みうなさんにも同席してもらうかもしれないな」
「ああ、わかりました」
なーんだ。結局うちの会社をバネにして、
自分のとこの商品を有名にしたいからあたしを呼んだのね、
と思ったが、それは心の中にしまっておいた。




