vol.59【代表取締役 高木みうな 第1話】
長い沈黙。目の前の電話線を本体から引っこ抜き、
パソコンの電源を切って、先に重い口を開いたのはえみり部長だった。
「確かに付き合ってたけど、あの男はあたしに
惚れて近寄ってきたんじゃないわ」
「でしょうね」
「ミューナ、宇崎があたしに近づいたのは“営業”よ」
「知ってます」
「あたしだって、宇崎が近づいてきた理由なんて、最初からわかってた。
でも、あたしみたいな三十路の欲求不満の女が、
四歳年下のあんなイイ男に言い寄られたら……
ついフラフラっと行っちゃうのはわかるでしょ?」
「そういうもんですかね」
「あんたも三十過ぎれば、あたしの気持ちがよくわかるわよ。
泣きたいのはこっちよ。営業目的で近づいてきた
あんな男にマジで惚れちゃって。
会社がこうなったのに真っ先にトンズラした、
宇崎のただのコマだった社長に言われるままに、
しなくてもいい苦労ばかり押し付けられて。
さっきまでずっとこの電話で苦情処理とマスコミ対応してたけど、
さすがに疲れたわ……あたしはずっと、宇崎に弄ばれていたの」
「弄ばれたって……えみり部長は本気だったんでしょ?」
「フン! 本気だったわよ。っははは!
宇崎が本当に惚れてる女はあんただってこと、
なんで今まで気づかないフリしてたんだろ……
ははっ、あははは! あははははははは!」
「えみり部長?」
「おかげさまで、今のあたしは精神科のお世話になってるわよ!
どこまでも社長の言いなりになって、宇崎に至っては
結婚まで先走りして考えちゃってさ!
自分で自分を馬鹿と言ってやりたいわ!
あの男に狂って、給料から貢ぎまくって、
ごほうびはセックスセックスセックス! 愛のないセックスだけ!」
えみり部長は、完全に壊れていた。
自虐的な言葉を何度も何度も吐きながら、
涙と鼻水をドバドバ出して大笑いしている。
「あたし、もう会社辞めるの。とっくに辞表提出した」
「え?」
「男に狂って精神壊して、クスリ飲まないと眠れないし
普通じゃいられなくなっちゃってさ。
働けなくなっちゃったの。せいぜいお幸せに。
トップモデルのトーヨコミューナさん!」
えみり部長は、そのまま総務部を去っていった。
あたしはその場に崩れ落ち、号泣した。
「宇崎の、宇崎の……バカヤローーーーーーーー!」




