vol.57【代表取締役 宇崎洋平 第4話】
♪ピーポピーポピポピポポポポ~♪
携帯が鳴った。「寿退社」の相手だ。
「ミューナ、ニュース見たよ」
「あたしも」
「ミューナが『DIY』を辞めて、モデルも辞めたら、
結婚するってオレ言ったよね」
「うん」
「ミューナは会社辞めて、モデルも辞めるんだよな?」
「モデルは辞めるけど『DIY』は辞めないよ」
「は? 会社が潰れたんだから、辞めるしかないじゃん」
「会社ってのは、潰れても給料出なくても、
やんなきゃいけないことが山ほどあるの」
「どういうこと?」
「あたしは『DIY』の一社員として、
最後まで残る。一番悪いのあたしだし」
「自分を責めちゃだめだよミューナ!
そんな面倒くさいことしないで俺とさあ……」
「悪いけど、それはできない」
「どうして? プロポーズだよこれは」
「だったらなんであたし達電話で話してるの?」
「それは……」
「ごめん。あんたとは結婚できないや。
あたしが本当に好きなのは、あんたじゃない。いままで、本当にゴメン!」
「ミュー」
ピッ。
すぐに「本当に好きな男」に電話をかけたが、
話し中なのか電源を切っているのか、
どの連絡先に電話をしても全く繋がらない。
あたしは「総務部 高木みうな」として、
久しぶりに中目黒のオフィスに出勤した。
「トーヨコミューナ」としても。
中目黒のオフィスビルの前には、
なぜか大勢の芸能レポーターが詰め掛けていた。
カシャカシャカシャカシャ!
鼓膜が破れてしまいそうな、けたたましいフラッシュ音を無視して、
いつものようにセキュリティカードを出し、
自動改札機のような「会社の入り口」を通った。
目の前の「受付」にあったA4サイズの張り紙にすぐに目が行った。
【社員の皆様へのお知らせ】
本日を持って、以下の社員以外、セキュリティカードを使って
入社することが出来なくなりました。
小澤 喜代彦
榊 えみり
高木 みうな
ゲスト
芸能レポーター達は、カヤの外でまだ騒いでいる。
「トーヨコミューナさん! コメントを!」
「トーヨコミューナさん! これはいったいどういうことですか?」
「皆さん、小澤社長は見かけましたか?」
「見ておりません! それよりトーヨコミューナさん……」
「黙れ!」
一喝すると、芸能レポーターは全員シュンとして押し黙ってしまった。
「『DIY』総務部 高木みうなとしてお話いたします。
今日からこの会社の社員は三人だけになりました」
「どういうことでしょう?」
「代表取締役は榊えみり。社員は高木みうなと
ゲストの二人だけです。今後この会社について取材する際は、
窓口である私、総務部高木みうなこと『ミューナ』を通してください」
「ふざけやがって!」
一人のレポーターが、セキュリティーカード
もないのに入り口を強行突破しようとした。
ビイイイイイイイイイイイ!
「ヒィッ!」
そいつは、けたたましいブザー音に驚いて不様に後ろ向きに倒れた。
「皆さんお勤めのテレビ局や出版社にだって、
この程度のセキュリティはついているでしょう?
大の男がなにビビってるんですか?」
レポーター達はそれ以上あたしに近づこうとはしなかった。
自動ドアのロックの仕方は、入社時にあらかじめ教育されていた。
あたしは教えられたとおりに自動ドアをロックし、
受付に貼ってあった紙を「自動ドア」に外に向けて貼ってやった。
芸能レポーター達はフラッシュをたいて
その紙をパシャパシャとやっていて、自動ドア越しに、
「ゲストというのは『レパブリカ』の宇崎洋平氏のことですよね?」
と大声で質問してくる奴もいたが、ロックした自動ドアを
叩き壊してまで進入してくる奴は一人もいなかった。
あたしは、オフィスビルのどこかにいるはずの
榊えみりとゲストを探しに前に向かって走った。




