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vol.52【満たされない女達 第4話】

入社してからというもの、えみり部長は販売員として

毎日毎日、超人的な売上目標を達成していたという。


そんなえみり部長を、二十五の誕生日が来ただけで、

自動的に総務部に回すか、退職するか迫るほど『DIY』も

馬鹿な会社ではない。


えみり部長は、肩書きこそ

総務部の末端社員だったが、実質的には商品制作部で仕事をし、

毎日夜も寝ないで商品をつくっていたという。


えみり部長のつくった洋服は、店に並べたとたん、飛ぶように売れた。


「DIY」の礎は、全部えみり部長が創ったと

言っても過言ではない。二十代後半にして、

えみり部長は総務部部長の肩書きを会社から受けることとなる。


「ミューナ、あたしたまに総務部から抜け出してたことあるでしょ?

商品制作部や開発部で指揮を取ったり、

各店舗を巡回したりしてたの。洋服なんて流行り廃りがあるから、

今ではあたしなんかより、若い子がつくった洋服の方が

売れる時代になったけどね。

制作部で指揮を取ることはほとんどなくなったけど、

巡回はまだやってる。これがあたしの伝説。

社内じゃこんなのが『伝説伝説』って騒がれてるけど、

そこら辺に転がってるよくある話の一つよ」


はじめて聞いたえみり部長の伝説。本人の口から出ると、

愛店長も、カンナも、あたしも口もきけないし動けない。


「カンナ、ミューナの言葉を借りれば

“店に所属しないで桃売ってた”

体だけは一人前の大人のあんたが、

なに子供じみたこと言ってんの? 

あんたには販売しかないんでしょ? 

好きなことをして飯が食える。

それがどんなに幸せなことか、感謝しなさい」


「す……」


カンナが唇を震わせた。


「すす、スミマセンでした! 皆さん本当にスミマセンでした!」


カンナは泣いていた。えみり部長はカンナを抱きしめた。


「泣きな泣きな、どんどん泣きな。偉そうなことばっか

喋っちゃってゴメン。いい? カンナは『できる子』だから、

会社だってあんたのこと呼び戻したんだよ」


「あたし、この三人の中で売り上げダントツのビリなのに……」

「自分を責めちゃダメ。あたしだって、この会社から

さんざん冷や飯食わされたよ。入社したての頃や

『総務部に行くべき女が制作室にのさばってる』とか言われて

虐められてた頃は、毎日ボロアパートで泣いてたからさ。

それでも、働いてカネ稼がなきゃ生きていけないじゃん。泣いていいんだよ」


「はい」

「それからカンナ、あゆみとはもう縁を切るんだよ」

「えっ? あゆみは小学校からのダチです! 

縁を切るなんてできません!」


「まあね。あんたには辛いことかもしれないけど、

あたしも学生時代水商売やってたから、

そういう業界に走っちゃう子の気持ち、少しはわかるよ。

でも「水商売」と「フーゾク」って全くの別モノだからね? 


自己責任で会社クビになったくせに、

いつまでも会社のせいにして、変な面接受けてる

あゆみみたいな奴とか、なんの勉強も努力もしないくせに、

将来の目標がない、することがないって自分自身に嘘ついて、

ビデオやっていっぱいカネ貰って服買って、

さっさと結婚しよう。なんていうギャルちゃん達の

思考回路まではわからないし、わかりたくもない。


あゆみは、もう別世界に生きてる人間だと思いな。

ズルズル付き合い続けてると、

あんたまでそういう世界に引きずられちゃうよ。イヤでしょ?」


「はい……」

「九〇年代にある少女漫画家がいてね。

その人のアシスタントやってた人、

今じゃ全員漫画家としてデビューしてるんだけどさ。

その漫画家の八歳年下のマブダチが、いいこと言ってるんだ。

『わからない若者文化は全てシカト、それが大人のエレガンスっすよ』

って、八歳年上の女に説教タレてんの。はっは」


「わからない若者文化は全てシカト……すごい言葉ですね」


「ね、すごいでしょ? その八歳年下のマブダチって一般人で、

肩書きが『図書館アルバイト兼マンガ読みまくり女』だからね」


「プハハ」


カンナが泣きながら笑った。


「あはははははははははははははははは!」


あたしもカンナも、愛店長もえみり部長も、声をあげて大笑いした。

さすがえみり部長。「雨降って地固まる」とはこのことだよ。

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