vol.51【満たされない女達 第3話】
美大といえば、通うだけでお金がかかると言われている。
デザインの授業を受けるために必要な、型紙や、布、糸、
電動ミシン、パソコンなどの「その他もろもろの経費」は全て自腹。
家賃は居候していたから一円も払う必要はなかったが、
給料は入っては出て、入っては出ての繰り返し。
水商売や、新聞配達など、高い給料のバイトをしないと
学食の三百五十円のカレーすらも食べられない。
周りもそういうバイトをして、
そういう生活をしている子ばかりだったという。
「さすがに、四年間親戚に置いてもらうのに『水商売やってる』
とは言えなかったから
『ファーストフードで夜、店の中の掃除するバイトしてる』
ってごまかしてた。
両親にも、親戚にも『そんなバイトがあるんだね~』って
珍しがられたし、褒められたよ。
昼食はねえ、親戚のおばさんが毎日おにぎり握ってくれた。
学食のカレーなんかより、ずっと安上がりだし、美味しかったよ、すごく」
そこまで努力しても、氷河期は厳しかった。
アパレル関係の会社を受けまくり、
デザイナーとして就職したかったが、どこも狭き門。
おまけに、時代背景として美大卒の「田舎者」より、
東京近郊に実家がある服飾専門学校卒の
「お嬢様」がもてはやされていた。
「ガチガチのリクルートスーツ着ていくより、
全身原色着て、髪の毛真っ赤に染めてるアンポンタンの方が
チヤホヤされる時代だったの」
えみり部長はデザイナーを夢見ながら、ショップ店員の
面接も受けていたが、それでもダメだった。
短大卒、専門学校卒、高卒の、ルックスの良い若い女の子を
受け入れている企業ばかり。四大卒の女は、相手にもされなかった。
「一社も内定もらえなくて、ストレス溜まりきってて、
もうヤケクソで
『私は名古屋出身の田舎者です。
本当はデザイナーになりたいのですが、
どこにも内定が出ません。販売員志望でも
履歴書を送っていますが、書類審査で落とされます』
ってはっきり言ったの。
その時、たまたま黒のリクルートスーツ着てて、面接官に
『君は黒が似合うね。三年しか働けないけど、いい?』
って言われて内定もらった。それが、まだ小さい頃の『DIY』」
「え……」
「『自分はこれだけ努力してきたすごい人』ってことを
延々アピールするより、ありのままの自分自身を曝け出したのが、
かえって良かったみたい。
『三年しか働けないけど、いい?』なんて、人間が言う言葉じゃないよね。
そいつはすでに、リストラされてる。
でもね、その言葉にすがりつかなきゃ生きていけないほど、
内定欲しかったし、それだけ氷河期って厳しかったの。
さっきのカンナじゃないけど、
美大の友達で一個も内定もらえなくて、
仕方なくそういう世界に走った子なんて、何人も見てるわ」




