vol.50【満たされない女達 第2話】
「さっき上から言われた。
マルキュー巡回してこいって。相当腐ってるわね、カンナ」
「ババアに言われたくない!」
「えみり部長をババアと呼ぶのはやめて!」
「榊部長をババアというのなら、今すぐ辞めなさい!」
愛店長と微妙にハモってしまった。
先のがあたしで、後が愛店長だ。
「あたしをババア呼ばわりするのは、
あんたみたいな金髪のクソガキには十年早い!」
「……。」
「十年早い」って死語だけど、えみり部長の
迫力に誰も口を聞けなくなってしまった。
愛店長が、カンナの手を握り、優しく諭すように言った。
「カンナ、榊部長の『伝説』もちろん知ってるわよね」
「はい」
「えええ、えみり部長の『伝説』ってなんですか?」
「榊部長、総務部で『伝説』について、
ミューナに話したことないんですか?」
「ないわ」
「あ、あたし、てっきりミューナは『伝説』
知ってるとばかり……榊部長、ミューナには
教育してませんでした。すみませんでした!」
愛店長がえみり部長に平謝りしている。相当な『伝説』のようだ。
「愛。どうやら、あたしの口から直接ミューナに
『伝説』話した方がいいみたいね。まあ、総務部の社員に、
今まで誰にもそのことを言わなかったのは、
過去の栄光だけで生きてる、
つまんないババアって思われたくなかっただけよ」
えみり部長が、静かだが迫力のある声で話し始めた。
部長が『DIY』に入社したのは、二十二歳のとき。
つまり、四年制大学を卒業して販売員になったってこと。
えみり部長が輝けるのは三年間だけだった、はずだった。
「今ほど酷くないけど、あたしが就職活動してた頃も氷河期でさ。
私立文系美大卒の二十二歳のあたしは、
ショップ店員になるのも厳しかった。
あの頃女が内定をもらえる業界っていったら、
生保の営業とか、先物取引とか、パチンコ屋とか居酒屋とか。
そんなのだけ」
えみり部長は苦労人だ。大学受験そのものを親に反対されたが、
どうしてもファッション関係の仕事に就きたくて、
親の反対を押し切って東京の美大に合格。
名古屋出身のえみり部長は「女は高校を卒業したら結婚」と、
うるさい親を完全に無視して、家出同然で東京にやってきて、
四年間親戚の家に居候した。
大学生の頃、生活費、学費、その他もろもろの経費すべてを、
水商売をして稼いでいた。




