vol.5【変化と出会い 第2話】
「み・う・な・ありがと~~~~!
あんたのおかげで入社三年目にして
やっと主任に昇格できたわ~カンパーイ!」
週末、あたしは麻巳子に、今までに入ったこともないような、
渋谷のこ洒落たカフェバーに連れて行ってもらった。
もちろん、今日は全部麻巳子のおごりである。
「ったく、いつもはチェーンの居酒屋でワリカンなのに、こういう時ばっかし」
「ちがうのちがうの! 本当にみうなには感謝してるの!
十二人も連れて来てくれるなんて!
そのうち八人が入会して帰ったのよ!」
「八人も! 二人とか三人とか、そんなもんじゃないの? 本当は……」
「いや、本当に八人入会してくれたんだって」
「あんなんで? まあ十二人も連れて行ったんだから、
集団意識っていうのはあるかもね」
「ちょ、そういうこと言わないでよ。
でもさぁみうな、あの体験エステ、けっこう持続力あるでしょ?
お風呂に入ったときとか、いつもと違うなって思ったりしない?」
またはじまった……。ワザと言ってやった。
「そういえばぁ、お風呂から上がってもすぐに
顔がつっぱらなくなったしぃ、
化粧のノリもなんとなく良くなったようなぁ~」
「そうでしょ、そうでしょ! ねえねえねえ、この際みうなもさー」
「キミ達?」
「はぁ?」
麻巳子の営業トークを延々と聞かされていたその時、
二人組の男があたしたちに声をかけてきた。
いかにも「渋谷を拠点にしてま~す」というチャラ男だ。
(こ、これってもしかして、ナンパ?)
「キミ達、名前なんていうのぉ~」
髪を金色に染めてワックスでセットしているような男が
あたし達に話しかけてきた。
「麻巳子です!」
「みうなです……」
「いくつぅ?」
「二人とも二十二歳」
「学生さん? OLさん?」
「一応、二人とも働いてる。あたしはエステで、みうなは『DIY』って会社に……」
そこまで言うと、金髪の男と一緒にいた、
黒髪のチャラ男が急に目を光らせた。その男は、強引にあたしの隣に座った。
「キミ『DIY』で働いてるの? すごいじゃん」
「いや、販売員じゃなくて、事務ですけどね」
「俺も実は、アパレル関係なんだ。ただし、ちょっとあこぎな仕事なんだけど」
「あこぎ?」
「そう、こいつ、パンツ屋の店長なんだぜ!」
「ぱ、ぱんつぅ?」
「黙ってろ、翔。ああ、僕、こういう者です」
男があたしに名刺を差し出した。
「『オリジナルランジェリーショップ・レパブリカ』代表、宇崎洋平」
とあり、店の住所と電話番号が書かれている。
名刺は白地に黒。縦位置縦書きの、ビジネスマンが持つようないたってノーマルなものだった。
「パンツ屋の店長」と聞いて、ピンクとか紫とか、
スケルトンといったがんばりすぎの名刺を予想していたが、
そのシンプルさにかえってセンスの良さが感じられる。それに、こういう名刺をもらうと、
(この人は、ものすごく偉い人)
だと勝手に思ってしまう。あたしもあわてて、
財布の中に一枚だけ入ってたヨレた名刺を差し出した。
「高木みうなさんか、素敵な名前だね」
「あ、あははは……名前ぐらいしか、素敵なとこなくてごめんなさい」
「そんなことないよ。みうなさんには、
またお会いすることになるかもしれないな。
僕、生地の仕入れからデザインから店の切り盛りから、
全部一人でやっているんで。
今日は、素敵な二人に出会えたからこれをプレゼントします」
宇崎は鞄の中から二枚のパンティを取り出した。
一枚は赤・黄・緑のレゲエ調の派手なTバック。
もう一枚はベージュのノーマルなものだった。
「きゃー! これあたし好みー!」
麻巳子は迷わずTバックをひったくった。
あたしはベージュのパンティを手に取った。
それはよく見ると、普通のパンティではなく、サニタリーショーツだった。
かなり機能的なデザインである。
「へー、これサニタリーショーツじゃないですか。
すごく使いやすそう。ありがとうございます」
「ああ、それはまだ試作品なんですけどね。気に入っていただいて光栄です」
「ところで、キミはなにやってる人なの?」
麻巳子が金髪男にツッコミを入れた。
「俺はバンドでギターやってて、普段はお好み焼き屋の店長だけど……」
「あははははは! お好み焼き! しょっぺー!」
「そんな麻巳子、笑わなくたっていいじゃない。
あたし、お好み焼き大好きよ。あなた名前は?」
「俺、浜井翔って言います。宇崎とは同中の先輩で付き合い長くて、よろしく」
こうしてあたし達は、宇崎と浜井の四人で楽しい夜を過ごした。
浜井は麻巳子を、宇崎はあたしを気に入ったようだった。
それから四人でドーゲンに……ということはもちろんなく、
宇崎と浜井は終電が出る頃を見計らってあたし達を渋谷駅まで送ってくれた。
生まれてはじめてのナンパ、しかも相手は結構イイ男で、
パンツ屋の店長……。電車に乗っている間も、
あたしはずっとクラクラしていたが、
麻巳子は腕組みをしながら納得のいかないようなふくれっ面をして、ずっと、
「逆じゃね?」
と、ブツクサ呟いていた。




