vol.37【蔑みのニックネーム 第3話】
「ど、どうしましょう。前日に考えてきた質問、
全部こんな感じなんですけど……」
「あんたプロのライターなんでしょ?
言葉を扱う仕事してるんだからさあ、
その場で質問ぐらいパッと考えられないの?」
「わ、わかりました……で、ではミューナさんの子供の頃について……」
「ああ、子供の頃ね。苗字が『高木』でルックスがこれだったから、
ずっと『ブー』とあだ名されていじめられていました。ハイ次の質問どうぞ」
ライターは『はじめての宣材写真』をサッと隠して、言葉を続けた。
「た、大変恐縮ですが、その頃のミューナさんのことについて、
詳しく教えて頂けますでしょうか?」
「大丈夫ですよ。あたしも『ミューナ』じゃなくて
『高木みうな』の頃の話をしたかったんです」
ライターは露骨にホッとしていた。
あたしは矢のようにしゃべりまくった。
「一応、これでも東京生まれで、私立の中学を受験してからは、
エスカレーター式でお嬢様短大に行けるガッコにずっと通ってて」
「中学の頃はあたしのことを『ブー』って呼ぶ奴らを見つけては、
その場で頭をグーで殴っていましたね。
でも、怒るのは疲れるんで、
高校の頃は陰口叩く女けっこういましたけど、全部シカトしてました」
「短大があったのは横浜。短大に進んだ頃自宅を出て、
日吉にアパートを借りました。今でもそこに住んでます」
「中華街にはよく行きました。友達とご飯食べたり。雑貨屋冷やかしたりね」
「これでも一応美容科卒なんですけどね。
この会社に内定が出た時は『販売員になれる!』って素で喜んでましたけど、
入社したらここに配属されて。理由はあたしがブスだったから」
そんなことをさんざん喋っていたら、ライターが『最後の質問』をした。
「さっき、日吉にお住まいと伺いましたが、ミュー……いや、
高木さんがこれ以上モデルとして有名になって、
もっとお金持ちになったら、住みたい街ってありますか?」
「そうですねえ……日吉には飽き飽きしてますから、
田園調布にドーンとデカイ家建てて、
ツバメ囲って、メイド雇って、
左団扇の生活でもしたいですねえ」
東京生まれ東京育ちのあたしが本当に住みたいのは「海外」だが、
わざと「田園調布」と言ってやった。




