vol.31【お得意様は苦労人 第1話】
その日、ほとんど接客らしきことをしていないのに、
朝のミーティングで店長から指示を受けた
五十五万のノルマは、夕方までにはクリアしていた。
「DIY」の商品も「レパブリカ」の商品も、
あたしが突っ立っているだけで飛ぶように売れた。
もちろん「ミューナ」として、ある程度名前が
売れていたからこそできたワザなのだが
予想以上の「ミューナフィーバー」に、
あたしはすっかり舞い上がっていた。
(初仕事としては上等)と思っていた時、
どこからともなく、ヒソヒソ声が聞こえてきた。
「あれ、ミューナじゃん?」
「ミューナじゃんねえ?」
「ずいぶんスタイル良くなったね。胸もでっかいし」
「雑誌で最初の写真見たときは、激しく笑ったし、ムカついたけど」
声のしたほうを振り向くと、同じ制服を着た
金髪の女子高生二人組と目が合ってしまった。
「あ、バレちゃった~」
二人は、あたしと目が合った瞬間わざとらしくそう言って
顔を見合わせて笑った。小声で短く話し合いをした後
二人はあたしに向かって、おもいっきり作り笑いを浮かべながら
「DIY」店内にのっしのっしと入り込んできた。
「あ……いらっしゃいませ」
「あたしたち、ミューナのファンなんです!
ミューナとお話できて光栄です!」
「ミューナの最初の写真見たときにはドン引きしたけど、
今のあの写真すっごい……セクシー?」
「ぎゃっはははは『セクシー』って『セクシー』って?
なに言ってんの失礼な、そういうときは
『キレイになったんですね~』って言っとくの!
ああ、ごめんなさいねウチのバカが。
ミューナって、キレイになったんですね~!」
「は、はあ……」
「ミューナのなにがカッコいいって
『選ばれてなんの努力もしないで』モデルになったとこ!」
「そう、すごくカッコいいです! 尊敬してます!」
「ん? んんんんん……」
「たまにいるよね『将来の夢はモデル』とか
言ってる痛い奴。なれるわけないのにね」
「ウチのクラス、もっとキモイのいるよ。
『小説家』とか『漫画家』とか『歌手』とかね。
そんなの、なれるわけないのにね、プッ」
「あーあー、わかるわかる~。そういう奴ってさあ、
ブログでキモイ小説とかキモイマンガ公開しちゃったり?
『歌手』とか言ってる奴に至っては、
駅前でギター持って歌っちゃったり?
高校生にもなってアイドルのオーディション受けちゃったり?
ぎゃははは、ダセーッ! 一円ももらえないのに」
「そうそう『将来の目標持ってる奴』って、キモイし絡みづらいよね。
そんなの、なれるわけないのにね」
「いいじゃんねぇ、ミューナみたいに
『選ばれてテキトーに』モデルやって
テキトーにショップ店員とかやってれば」
「まあ、あたしらはミューナみたいにカッコよく
生きるのは無理だけどさ。単発のバイトでもやって、
一月に十万ぐらい貰って、その金で服とかバッグ買って、
ケータイの金払って、結婚するまで
ずっと家にいるのが一番楽ちんじゃんね」
「そーだよね。 だいたい、猛勉強して大学行って
就活したところで、内定取り消されるなんて、痛すぎるよね。
なにごとも一生懸命やればやるほど、バカ見るし損するのにね」
「あのぅ、お客様……」
「ごめんなさーい。今日はあたし達、なにも買いませーん。
ホントごめんなさーい! だって、ミューナ見ちゃったから……グハハ!
今度のバーゲンのとき、親に金貰ったら、
ソッコーで大量に買いに来ま~す! バイバイッ!」




