vol.3【あたしはコンプレックスの塊 第3話】
土曜日、モトを取るために、自由が丘にある麻巳子のエステに行った。
最初は麻巳子が応対してくれたけど、しばらくしたら
麻巳子よりずっと年上の、巻き髪のやり手っぽい女が出てきた。
案の定、セールスされまくった。
「これこれのサービスを受けるのに、これだけローンを組めば……」
なんて話になってくる。
だいたいねえ、ワキ毛一本永久脱毛するのに千円もするなんて!
全部脱毛したらいったいいくらかかるっていうのさ! バカバカしい。
あたしには、一つだけ長所がある。
それは「ブー」と呼ばれていじめられていたころ培った、口の悪さだ。
「ですから、高木様、当エステにご入会いただければ……」
「入会? あたしはこのチケットで三時間エステの体験できるって
いうから来たんですよ。あたしだって暇じゃないんですから、
早く体験させてくださ~い」
「あの、高木様……」
「うっさい! さっさと体験させろっての!
あたしゃ、騙されないわよ!
だいたい、ワキ毛一本千円だなんて、ボッタクリよ!」
「さようでございますか、わかりました」
その女、あたしから金取れないってことがわかると、急に態度が変わった。
チケットをひったくって、タオルとガウンよこして、
やる気ゼロの低いトーンの声で
「五号室にいらしてください」だってさ。笑っちゃう。
期待してなかったけど、三時間のエステ体験は五千円分の価値しかなかった。
ワキ毛の永久脱毛も左ワキの上のほうだけをちょこん。
フェイシャルも、よくわかんないオイルを顔に乱暴に塗ったくられて、
十五分くらい蒸しタオルしてはい終わり。最後に美容液をちょこん。
痩身も、エステというよりは、クイックマッサージに来たような感じ。
二の腕をちょん。お腹をちょん。太い足をビシバシビシバシちょんちょんちょーん。
全部終わって時計を見たら、三時間体験のはずなのに、
二時間ちょいしか経ってないんでやんの。
あたしは着てきた服に着替えると、
さっきの巻き髪の女と麻巳子に言ってやったわよ。「サーギ!」って。
そんな詐欺に近いエステでも、エステはエステってのがよ~くわかった。
アパートに帰る途中、今までにありえなかったことが起きたのだ。
生まれてはじめてテレクラのティッシュをもらった。
生まれてはじめて美容院のチラシをもらった。
生まれてはじめてAVの勧誘をされた。
生まれてはじめてホストクラブのキャッチを受けた。
生まれてはじめて……って、普通の女の子だったら
普通に街でされていることに、あたしは今まで全く無縁だった。
なんだか、やっと女として認められたみたいで、ちょっと嬉しかった。
だからといって、あのエステに通うつもりはさらさらなかったけれど。




