vol.18【ずっとそのままで 第2話】
それでも、お好み焼きに目が無いあたしは、日曜日
六時に渋谷のモヤイ像に行った。
もちろん目的はそれだけではない。
翔君に誘導尋問して、少しでも宇崎の情報を
引き出そうという魂胆があった。
「みうなぁ~!」
モヤイに着くと、麻巳子が先に来て待っていた。
「麻巳子、なんでハチ公じゃなくてモヤイなの?」
「こっちの方が翔君のお店に近いの。さっ、行こ」
あたしは麻巳子の後についていった。お好み焼き屋というと、
たぶん誰もが真っ先に、自分達で焼くスタイルの、
わりと広めの店を想像する。
しかし、麻巳子は、飲食店などなさそうな、
渋谷の裏の裏と言うべき、エロ雑誌や、エロDVDが
置いてあるような店が立ち並ぶ怪しい通りを、
恥ずかしげもなくどんどんどんどん進んでゆく。
「麻巳子……翔君のお店って本当にこんな場所にあるの?」
「まあ、ついてきてよ」
店の中にいるのも通行人も、眼鏡をかけたオタクっぽい男だらけ。
こんな場所を女二人で歩いているという、
男達の好奇の視線が気になったが、
麻巳子はお構い無しに通りをズンズン突き進む。
やがて、お好み焼きの香ばしい匂いが漂ってきた。
「みうな、ここよ」
「……。」
言葉を失った。一応、看板に「お好み焼き 猩々」
と書かれているが、なんだか、新宿ゴールデン街にありそうな
一杯飲み屋という感じ。店の外にはなぜか赤提灯が吊られている。
匂いこそなければ、お好み焼き屋というよりは、
ヨッパライオヤジ御用達の店というイメージだ。
「まあ、入りなよ」
中に入ると、翔君が出迎えてくれた。
「オッス、麻巳子。みうなちゃんも久しぶり」
店内には、翔君一人しかいなかった。
はじめて会ったときとは大違い。
いかにも「お好み焼き屋」と言うべき、
薄汚れた白衣に身を包んでいる。
やはり飲食店の店長が、金髪だとトラブルが多いのだろう。
頭に乗せた帽子に刺された何本ものヘアピンで、
金色の髪を必死に隠しているのがわかる。
席はカウンターしかなく、イスも六席しかない。
どうやら自分達で焼くスタイルではなく、
翔君が目の前の鉄板で焼く仕組みのようだ。
当然のごとく、あたし達以外に、客の姿はない。
「はっはっは、ビックリしたでしょみうなちゃん。
『グルメ雑誌』じゃ絶対紹介してくれない店
『お好み焼き しょうじょう』です」
「翔君。こんなんで採算取れてるの?」
「へっへっへ。少なくとも宇崎の店よりは。
やっぱり、なんだかんだ言って小銭が一番儲かるんだよね。
商いの基本だよ。これでも、渋谷うろついてる奴らの間では、
隠れた名店として通ってる」
「そう。週末は結構混むのよね。さっきのオタク男とか
『これからドーゲン行くぜ!』って感じの若いカップルで。
あたしも最初来たときは退いたけど、
店の外に行列ができてるのを見たときは『翔君、やるぅ!』って思った。
だから翔君と付き合いはじめたの」
「はい出来た。豚肉とイカ入り焼き。おまけで揚げ玉もトッピング。
さっ、二人とも座って、食べて食べて。
あ、青のりとタレとマヨネーズはつけ放題だよ。
ただし、タレは二度塗りしないでね、青のりが容器に入っちゃうから」