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【第三章】ハチ公と喫茶店

招待されてる…!

触ってみるとそれはシルバーで重厚感があり、

地球にある物質ではないものでカードの形に

加工されていた。

招待されてもどうやって行けばいいのか分からないのよ!

そうだ!また夢であの人に会って

教えてもらえばいいんだ!

でもあれから何の夢の一つも見ちゃいなかった。

むしろ睡眠不足だった。

理由はもちろん、オーバーシンキングのせい。

落ち着いて深呼吸をして、くまなく招待券を眺めた。

“田中恵様 招待券 1日限り有効

我々はいつでもあなたをお待ちしております。

この場所を見つけていただけるよう心より願っております。

つきかけまち協会”

え、教えてくれない!!

心で願ってるだけ!!!

公式様、教える気は一切なし!

しかも名前まで知られている。

プライバシーガン無視つきかけまち協会め!

お客様相談の電話番号とかないんかい!!

と裏面を見たら記載があった。

フリーダイヤルだった。

いちかばちかかけてみる。

プルルルルルル………ガチャ。

ひぇ、出たよ。

「おかけになった電話は現在使われていません」

よく聞くあの女性の声だった。

「ピーのあとに…」

するとこの後聞いたこともない言葉が耳を走った。

「あなたの知りたいまちの名前を教えてください」

私は少し震えた声で、

「つ、つきかけまちについて」

と答えた。

急に無音になり、それが一分も続いた。

切ってしまおうかと思ったちょうどその時、

沈黙が解かれたのだ。

「もしかして田中さん?」

「あ!はい!そうです!」

「つきかけまちの件ですね。

荷物届いたようで安心しました」

「あのつきかけまちって本当にあるんですか?」

ストレートに聞いてみた。

「あると信じた方のみが行くことのできる場所です」

よくファンタジーの世界で言われるやつだ。

まさか、自分が言われる番が来るとは。

「招待券を手に入れても何十年経っても辿り着けない。

もしくは信じれず、道が塞ぎ来れない方、

興味を持てず、来訪しない方もいます」

年増の女の声だった。

「ハチ公か喫茶店がヒントをくれるかもしれません」

ブチッ。

ツーツー。

優しい口調とは裏腹に、何の前触れもなく電話を切られてしまった。

「ハチ公と喫茶店…」

とりあえず明日、渋谷に向かうことにしよう。

今日はもう一歩も外に出たくなかった。

家から渋谷までは、電車で約40分ほどかかる。

職場は徒歩圏内なので、楽ちんだ。

次の休みの土曜の朝、早起きをして渋谷に向かった。

電車に乗る若者はみんな流行の服を着ている。

私は数年前に買った白のスウェットに、

ダボっとしたサックスブルーパンツ、黒のウエストポーチというなんともカジュアルな服装だった。

改札を抜けてハチ公を目指す。

降りる場所を間違えて遠回りの出口から出てしまった。

ハチ公!ハチ公!

待ってろよハチ公と思いながら、

やっと着いたがやっぱり渋谷の人気者。

観光客とみられる行列がすでにできていた。

大人しく行列に並ぶ東京在住の私。

ようやく順番が回ってきて、後ろのカップルが、

「撮りましょうか?」

と言ってくれたので、せっかくならばと

スマホを渡して撮ってもらった。

ハチ公の銅像を見渡したが、何もヒントは得られなかった。

唯一得たとすれば、

東京在住女のハチ公とのツーショットだけだった。

しっかり笑顔である。

ハチ公に失礼だが、いるか?

このツーショ。

お腹が空いてきたので、近くのフルムーンと書かれた喫茶店に入った。

純喫茶ブームもあり、ピーク時ではなかったが、店内は女性客で賑わっていた。

数人の客が待っていて、ここでも順番待ちをして、ようやく呼ばれ席についた。

店内は薄暗く、店員は3名ほどでまわしており、

多くは高齢の方だった。

ホットコーヒーとミックスサンドを頼むと、

「かしこまりました」

と店員は言って、スタスタと厨房に行った。

10分くらいして、姿勢のいいオーナーらしき髭を生やした男性がホットコーヒーとミックスサンドを運んできた。

「お待たせしました。

ホットコーヒーとミックスサンドでございます」

「ありがとうございます」

コーヒーの香りが広がる。

マグカップとソーサーは濃い青色で、コーヒーの茶色がよく目立つ。

ミックスサンドはトマトにレタス、ハムがたくさん入っていて、美味しそうだ。

「ご注文は以上でよろしいですか?」

「はい」

と言って、

「あの…」

と付け足した。

つい質問をしたくなった。

「ここはなぜフルムーンと言う名前なんですか」

オーナーは物珍しそうに1秒ほど私を見てから、

「昔、クレセントムーン言う純喫茶がありましてね。

家内と観光で見つけて休憩にと寄っただけなのですが、えらく気に入って。

喫茶店をオープンするのが長年の夢でした。

フルムーンから月に関連する名前にしようとなってここをクレセントムーンにしたんですよ」

すらすらと言葉を並べ、過去を振り返りながら語るご主人。

“フルムーン”は満月。

“クレセントムーン”は三日月。

三日月は欠けている。

つきかけまち?

「素敵な由来ですね。

ここは本当に落ち着きます。

ところでクレセントムーンはどこにありますか?」

真剣な眼差しでオーナーの目を見つめた。

「長崎ですよ」

九州だ。

来たー!やっと来たー!ついに!

大きな手がかりが掴めた!

貿易で栄えたあの土地ですか。

行くぞー行くぞー!と気持ちがはやっていた。

「でもそのクレセントムーンは随分前に閉業したそうです」

肩の力が一気に抜けた。

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