【第二章】頼んでない配達物
もう少しキーワードが欲しい。
偶然にも私の名前は田中恵だった。
共通点が同じ「恵」だったことからネットで
恵さん探しを始めた。
だが、やっと見つけたどの恵さんもそんな夢を見たことはないの一点張りだった。
数日経ってから、40代の男性があの男に会った夢を見たと自らDMをしてきた。
そして彼が受け取ったキーワードは、
また異なっていた。
“つきかけまち”と
“アトピー”だった。
“アトピー”?
どういうことだろう?
私は生まれつきアトピーで長年悩まされてきた。
夏の時期はなるべくカーディガンを羽織って肌を見せないようにしてきたし、スキンケアも欠かさずしてきた。
もしかするとつきかけまちには温泉があって、
その温泉にはアトピー患者が行くと完治でもするのだろうか。
ますます興味が湧いてきた。
できるならば行って治したいものだ。
その男性に、
「大変失礼ですが、あなたはアトピー持ちかどうか教えていただけますか?
私もアトピー持ちです」
と聞いてみた。
予想外の答えが返ってきた。
「はい。でもいつからか完治しましたよ」
完治、完治だと!
と言うことはこの人は“つきかけまち”に行ったのか?
“温泉”に浸かったのか?
「もしかして“つきかけまち”に行ったことがありますか?」
「いいえ。一度も。いろんな観光地には行きましたが、“つきかけまち”には行ったことがありません。
沢山調べた記憶はあります」
同じ質問を恵さんにも聞いてみる。
しかし彼女もアトピーは治ったが、
“つきかけまち”には一度も行った事がないと言う。
“つきかけまち”
“九州”
“温泉”
それに“アトピー”
効果がある温泉ならばもう既にメディアやインフルエンサーが情報を発信しているだろう。
なぜ知られていない?
この日は夜中まで検索して、ようやく眠りについたのが2:00を過ぎた頃だった。
スヌーズで起こされ、無理矢理体を起こして、慣れた朝の準備を早々に済ませ会社に向かった。
会社の昼休憩になるとサンドイッチを片手に、右手でマウスを動かした。
後ろから後輩の山下ちゃんの気配がする。
私のパソコンを覗く。
「つきかけまちぃ〜?何ですかそれ先輩」
彼女は温泉オタクだった。
どうやら温泉オタクでも知らないらしい。
マイナーな温泉地、温泉地ではないのか。
「知らない?じゃあやっぱり温泉地じゃないのかあー」
「え、もしかして温泉があるんですか!そのまちは!」
目を輝かせながら言った。
「情報がなくてね。九州にあるんじゃないかってにらんでるんだけど」
「行きたい!」
「それが検索しても出てこないの」
「何それ!」
「夢で出てきたワード」
「先輩ピュアなんですか」
「ちょっと信じたいじゃない。ネットで同じような夢を見たって人がネットにいてさ」
「なんかロマンチックー!わくわくしますね」
何か分かったら、教えてくださいよーと一言言われ、山下ちゃんは同期のイケメンくんとイタリアンを食べに行った。
調子がいいやつだ。
だが憎めない。
仕事が終わり、一人暮らしをしているアパートに戻る。
だんだん東京の一人暮らしも慣れてきた。
お腹がぺこぺこだが、それどころではない。
頭の中は“つきかけまち”でいっぱいだった。
30代の女性も、40代の男性も情報は出尽くしたようで、手がかりがなかった。
もう1人、ネットの海で探し出すしかなかった。
きっと日本の九州のどこかに隠れている。
秘湯はきっとある。
今度はインスタグラムで検索をかけてみることにした。
すると10代の女の子が“つきかけまち”について何か知ってそうな投稿があった。
DMでやりとりをする。
「私が夢を見た時に教えてもらったキーワードが“つきかけまち”と“ラピスラズリ”でした」
………ラピスラズリ?
ラピスラズリと言えば、ブルーの色で人類最古の宝石の名前だ。
アフガニスタンが主な原産国で、日本名では瑠璃。
古代エジプトでは、聖なる石とされてきたらしい。
“つきかけまち”
“九州”
“温泉”
“アトピー”
そして“ラピスラズリ”
増えていくワードたち。
女の子に質問してみる。
「失礼ですが、アトピー持ちですか?
私はアトピーです。」
「はい」
と返ってきた。
この夢を見る人の共通点はアトピー患者。
「完治しましたか?」
「はい」
そして治っている。
みんなその夢を見たのは数ヶ月前。
また何かあの男の夢を見たのか。
見れるのか。完治するのか。
ラピスラズリを調べると、どうやらこの石には強い力があるようで試練の石とも呼ばれているらしい。
もうこの情報収集が試練だよと思っていると、
チャイムが鳴った。
宅配の頼んだマルゲリータのピザが届いた。
受け取ってからちょうど半月分くらい食べた頃、
またチャイムが鳴った。
「また?」
何も頼んでないのに。
重要と書かれた茶封筒を持って待っていたお兄さん。
サインを求められ、サインしてドアを閉めた。
やけに今日は多いな。
送り主が書かれておらず、宛先の住所と田中恵様の文字があの夢で見た“つきかけまち”“九州”と類似していた。
封を開けると、つきかけまちと書かれた一日限り有効の招待券だった。