第二十四話 少女とナギ1
くるりと、寝返りをうつ。洗剤の匂いはしないが、よく洗われて清潔に保たれている
サラサラとした心地良い感触が、まだ眠りへと引きずりこもうとする。
しかし。次の瞬間、あたしは飛び起きた。
忘れてた!まだ読み終わっていない本が、本が沢山あるんだった!
あの宝を読まずに、あたしは寝てしまったのか!
なんてことを。ああ、本、本はどこ――――――――って。
おい。
「・・・それ以前に、ここはどこですか?」
知らない部屋。無機質に白く何も無い空間。
あるのは、ベッドと窓だけ。
・・・刑務所かっ!
とりあえず起き上がり、和めるふよふよと浮かんでいる生物、別称『精霊』に
話を聞いてみる。
『あ、おはようございます、王!』
「お、おはよ・・・。」
朝からキラキラと眩しい笑顔を見せられ、引きつった顔で笑い返す。
眩しい!とにかく眩しい!羽も光が反射して眩しい!髪も眩しい!
二日酔いの人、一瞬で酔うんじゃなかろーか。
・・・って、うん?なにか、呼び方が違うような。
「あたしのこと、なんて言った?」
『?王、ですよ?』
おお!
私はひとり感動する!
いや、まあ呼称のランクは変わってないんだけど。
水色少年が取り計らってくれたのか?とにかく感謝。
これで女だとはバレないだろう、うん。
第一の関門、クリア。ミッションコンプリート!
ぐっと拳を握るあたしをただにこにこと精霊が見守ってくれる。
・・・いや、そんなににこにこと見られたら恥ずかしいんですが。
そこんとこ、分かってくれますでしょうか。
「で、ここ、どこなの?」
確か・・・書庫でナギの写真を見たときから記憶がない。
『エヴィルの部屋です。・・・ああ、王を寝かすなら私たちが作ったベッドで
寝かしてさしあげたかったのにっ!いっそのこと―――――。』
答えてはくれたものの、なにやら体をプルプル震わせたかと思うと、
他の精霊と熱っぽく話し込んでいる。
・・・なにやら不穏な気配を感じたので、ここはそぉっとしておこう、うん。
ホントは、なんでエヴィルの部屋にいるのか聞きたかったんだけど。
ラディルと同じにおいがするよ、君。
小さく開いた扉の隙間からすり抜け、ふかふかの絨毯がひかれた廊下へと繰り出す。
よし!状況把握だ、うん。・・・宝箱、ないかな~。敵、こないかな~。
皆の者、行くぞぉっ!おお~っ!
いざ、宝の待つ書庫へ!ナギという姫を探しに!
なにやら変なテンションであたしが歩き出した先は。
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・迷子に、なっちゃいまし、た。
だらだらと、涼しい塔の空気の中で冷や汗をかく。
あたし、方向音痴だったっけ!?
いや、凪樹じゃあるまいし。
・・・凪樹、自分の家でも迷っていたような・・・・。
そんなふうに、塔の中をさまよっていたあたしを見つけてくれたのは。
他でもない。
塔の主、エヴィルだった。
ちなみに、迷ったのはただ単にエヴィルの塔がぐるぐると入り組んでたから
だったと知るのは、もう少し後のこと。