第十七話 少女とヴァル2
「にーさま!」
僕はニッコリと微笑んで兄様達に手をふった。
もちろん、ミヤトのズボンを握ったまま。
ラディ兄様は、いつもよりもどこか不機嫌そうな顔。
リヴィ兄様は、いつも通りのなんにも考えてなさ・・・こほん。能天気な笑顔。
エヴィ兄様も、いつも通りの不機嫌な顔。
「・・・で。ヴァル、なんでそいつにくっついてるんだい?」
・・・ひ、ひぅ。兄様、笑顔が怖いです!
思わず、ミヤトの後ろに隠れる。
「ど、どうやって言い訳しようかなぁ?」
冷たいと汗をかきながら考えていると、思わぬところから助けが入った。
「だから言ったでしょう。この中で一番精霊に好かれているヴァルが懐いていますし。
第一、あれだけ精霊の庇護がある者を外に放り出す訳にも行きません。」
エヴィ兄様、感謝です。
「そうそう!それに、許可でなくたってミヤトは僕のお客様にするんだもん!」
ここぞとばかりに口をはさむ。
ますます眉を寄せたラディ兄様が、リヴィ兄様を見やった。
「リヴィはどう思う?」
「あ~・・・。別にいいんじゃねぇ?」
気のない答え。執務した後のリディ兄様はいつこんなんだ。
さすが脳筋・・・い、いや、運動だけが得意な兄様。
だって、俗語辞典、面白いんだもん・・・。
流石に三対一じゃ仕方ないみたいだ。
苦り切った顔でラディ兄様が口を開く。
「はぁ・・・。取り敢えず、調べてから処遇を決めよう。
ミヤトという者、王に対する礼儀は心得ているか?」
すると、ミヤトは涼しい顔で切り返した。
「そなたらは我の王ではない。我は、誰にも縛られぬのでな。」
や、やばい。兄様の目がタカよりも鋭くなってるっ。
ラディ兄様、今にも切れそうだっ!
慌てて口を開こうとしたとき。
「だが、ヴァルに対しての礼儀ならば、もっている。
名を呼び合う仲の者への礼儀は心得ているつもりだが?第一皇子殿。」
皮肉げに言うと、一瞬優しげにこちらを見てから、完璧な所作で腰をおった。
思わず息を飲む。貴族のように洗練され、流れるような礼。
その動作一つで、見る者を惹きつけるような仕草。
この国の最高礼をするミヤトは、黒髪をキラキラと輝かせ、凛々しくも美しかった。
ぼんやりと、あの瞬間をおもいだす。
僕が意を決して悪魔じゃないのかと聞いたとき、ミヤトはきょとんと無防備な顔をしたあと。
・・・今までの態度からは考えられない、優しげな苦笑を浮かべていた。
思わず見惚れるほど、その笑顔は綺麗で。
いとも簡単に、僕は宮都に心を許してしまった。
精霊が、喜びさざめく。我らが待ち遠しき王、ここに帰還せりと。
精霊が、笑いさざめく。我らを統べる王、ここに誕生せりと。
精霊が、歌いさざめく。我らが無垢な王、ここに存在せりと。
少女は、気づいているのだろうか。
精霊は、誰よりも強き盾となる。ただ、それが全てというように。
精霊は、誰よりも強き剣となる。ただ、それが全てというように。
狂気に近いほど、彼らは純粋にミヤトを愛し、守り続ける。
そう。
王を傷つけるモノは、何もかも。
ああ、気づいて。
君が誰かを憎しむのなら、その者の人生は断たれるのだろう。
君が誰かを慈しむのなら、その者の人生は幸福へと繋がるのだろう。
君が誰かを怖がるのなら、その者はいつの間にかひっそりといなくなるのだろう。
君が誰かを愛するのなら、その者はいつの間にか少女を愛するのだろう。
そのことに気づかない限りは。
君次第で、世界は滅びるのだと。
君次第で、世界は栄えるのだと。
その好意の果てに、どんな代償があるか。
愛されすぎた少女は、その未来と向き合えるのだろうか。
その愛の果てにある、小さな少女には重過ぎる運命を背負っても。
それまでにあった、心を無くしてしまうほど残酷な現実を背負っても。
それからもある、受け続けなければいけない憎しみの声と犯した罪の深さを背負っても。
それでも。
それでも、顔を上げたのならば。
優しすぎるほどの少女の愛で。
優しすぎるほどの少女の涙で。
優しすぎるほどの少女の笑顔で。
優しすぎるほどの少女の温かさで。
この世界は、救われる。
でも、それまでは。
精霊たちとともに、君を守ろう。
精霊を統べる王であり、我らの王でもある少女――――――。
ミヤト・クサカベよ。
君が助けを呼ぶなら、喜んで駆けつけよう。
この翼がちぎれたとしても。
君が微笑んでくれるのならば、どんなことでもしよう。
我らが主に、絶対の忠誠を。
すみません。だいぶ更新が遅れてしまいました・・・。
今回はどっかシリアスになってしまいました。
この身にあまるほどの評価をいただいております。
恐れ多くも、七十件以上もお気に入り登録をしていただけて。
本日、作者はニヤニヤしぱなっしです。ええ、そうですとも。
感想大歓迎でございます。
もし誤字脱字がありましたら、教えていただけると嬉しいです!
最後に伏線をはりました。
宮都が女だと知っているご様子です。
精霊に気をつけろという割には、随分と自分も宮都にご執心してますね。
少しネタバレかもしれませんが、この子もかなりの主バカです。
もし平和になったら、甘やかしすぎる程甘やかすと思います。
しかし、だいぶ先です。この子が出てくるの・・・。
ま、気長に待ってやってください。