第十六話 少女とヴァル1
話し終わったあと。
不思議なことに、視界が少しぶれたと思ったら他の皇子たちが遠くに離れていた。
いつの間にか精霊が結界のようなものを張ってくれていたので、ありがたく使わせてもらおう。
で、少年と二人とり残されたんだけど。
・・・うん。自分で演技しといていうのもなんだけどさ。
これ。
メチャクチャ恥ずかし――――――――――――――――――――――っっっ!
なんで!?なんで一人称が『我』なの!?
なんでちょっと上から目線的な態度とっちゃってる訳!?
しかも樹にもたれてなんかカッコつけたよ、あたし!
あの第一皇子さん、剣に手、かけてたよね!?
刺されなかったのが不思議だよ!?
まあ、予定なんてご対面したときに頭から抜けてたけど。
魂も半分抜けかけてたと思います。
威圧感バリバリの人達に命賭けたら、そうなってもおかしくないよね!?
幼稚園とかの発表会でも、大勢の物好きな人たちが何故かあたしを主役にしようとしてたし!
無理だから!舞台で『木』の役するのがぴったりな地味人間だから!
主役に結局されたけど、その直前までもう倒れる寸前だったから!
いや、始まったらなんか開き直っちゃったんだけどさ。
終わった後は勧誘みたいなのがあたしを追いかけて――――。
「あ、あの・・・。」
無表情はなんとか保っていたけど、内心は思いっきり混乱していたあたしに、
目の前の少年が困惑気味に話しかけてきた。
ご、ごめんよ少年。こういう時本があれば―――――――ってそうじゃなくて!
これ以上少年を困らせるのは申し訳ないので、やっと少年と視線を合わせる。
そういや、背の高さが同じくらいだ。あたしの方が若干高いけど。
「・・・いや、済まない。少し考え事をしてた。名前でよんでも構わないか?」
この子には、他の皇子様のように上からじゃなくても良さそうだ。
なんとなくそう思ったので、少し警戒を解く。
「は、はい。僕も、名前で読んでもよろしいでしょうか?」
おどおどとしながら淡いすみれ色の瞳で見上げてくる少年――――――いや、ヴァルはなぜか敬語だった。
あれ、なぜだろう。ヴァルは皇子様なのに。
あたしも、この喋り方はけっこう辛い。小心者ですから。
しかし、演技をしてしまったからには態度を改めるのもおかしいだろう。
しょうがなく、このまま会話を続行。
「ああ。よろしく頼む。名前で読んでもらっても構わないが・・・敬語でなくても良い。」
すいません、すいません!この喋り方、ぶっきらぼうにしかならないんですよ!
「は――――あ、いや、うん。こちらこそよろしく、ミヤト。
・・・けど、僕と話したいことって何なの?」
「いや、なぜ召喚したのか聞いておかねばと・・・。」
すると、あ、と呟いて視線を泳がせるヴァル。
それにしても、可愛いなあ。
さらさらとした、手触りが良さそうな金髪は純粋な金色で、染めた髪ではでないつややかさ。
淡く優しげなすみれ色の瞳は大きく、どことなく愛らしい感じが和む。
・・・どこか、弟に似ていると。ふと、そう思ってしまった。
容姿は全然違うのに、どこか似ていると思わせる雰囲気。
思わず、ヴァルの頭に手を伸ばす。
「ど、どうしたの?」
「あ――――すまない。何でもないんだ。で、どうしてだ?」
すこし怯えたようにヴァルに見上げられ、慌てて、手を引っ込める。
――――どこか心の奥が、ずきりと痛んだ。
「えっと・・・。聞かない方が、いいと思う、よ?」
どうやら、聞かれたくないらしい。演技をするのも忘れ、苦笑する。
しかし、それをヴァルが唖然としたように見つめているのに気づき、表情を引き締めた。
「そなたがそういうならば、聞かないでおくが。
だが、そのかわりに、こちらの願いを聞いてくれはしないか?」
そう。ここでの運命を分ける、最大の条件。
ここで、死ぬわけには行かない。
すると、こくりと喉をならして、ヴァルが緊張したように言った。
「じゃ、じゃあ、その前に。思いっきり忘れてたんだけど。
・・・ミヤトは悪魔じゃ、ないよね?」
「は?」
思わず声が出てしまった。
・・・。
いや、何をいうのかと思ったら。
うん。これは、結構王道な問いだねっ!
予想してなかったけど。
もしかして、なんか警戒されてたの、そう思われてたから?
「いや、違うぞ。まぎれもなく、人間だ。我の国では、ほとんどの人が黒髪なのだ。
ついでにいうと、その近くの国も黒髪のひとで、そうそう珍しい色ではないのだが?」
え。まさか、これも王道的パターンですか?
黒髪は存在しないみたいな。
ヴァルはかなり驚いたらしい。瞳をまあるく開いていた。
「ここには、黒髪の人なんて一人もいないんだけど・・・。」
キタ――――――――ッ!正解だった!
いや、オタクじゃないけど。でも、結構残念だ。
平穏に過ごすことは出来な――――――って。
今、その交渉してる途中だったんだっけ。・・・忘れてた。
「本題に戻ってもいいか?」
「あ、うん・・・。」
まだすこし呆然としているヴァル。そこまで驚かれるとは思いませんでした。
「検査なりなんなりしてもいいのだが、我が危険ではないことを証明できたら、
住む場所と仕事を貰いたい。・・・無理か?」
あの皇子様たちが信用してくれるのかどうか。
考え込んでいるヴァルが、頼みだ。
すると、一人の緑色の髪をした少年の精霊が飛んできて、ヴァルの耳元で何かを囁く。
精霊って誰にでも見えるのか?
精霊は囁き終わると、こちらの方にとても癒される笑顔を向け、またどこかへ飛んでいった。
すると、ヴァルが決めたらしく、顔をあげる。
緊張して、背筋が自然とのびた。
少しの間のあと、ヴァルが出した答えは。
「できるかどうかは分からないけど、兄様たちには頼んでみるよ。」
よ、よかった・・・。ひとまず、安心。
「ヴァル。そなたのはからいに、感謝する。」
「うんっ。どういたしまして!」
にこりと、可愛い笑顔でヴァルが微笑む。
あ、あれ?何故か、ヴァルは完全に、こちらに気を許したらしい。
「・・・どうして、気を許しているのだ?」
「だって。さっきの精霊たちもいってたけど、どの精霊にも凄く好かれてるみたいだし。
さっきの子なんて、もし歓迎しないようなら、国の恵みを無くすぞっていってたよ?」
・・・おどしたのか。個人的にはありがたいけど、それはやりすぎのような。
それに、とヴァルは笑って言った。
「精霊の恵みがなくなったら、国は滅びるも同然だから。きっと兄様たちは許すと思うけど。」
精霊、グッジョブ!いまだに、何故あんなに好かれているのかわからないけど。
「僕も、ミヤトのこと気に入ったし!」
そういって、ヴァルはきゅっと宮都のズボンにしがみついた。
どうやら、物凄く気に入られたらしい。
ふふ、可愛い。可愛いんだけど。
結界を解いてもらい、皇子たちの所へ向かいながら、一言思う。
・・・ヴァルさん。それ、歩きにくいっす!
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リクエスト等ありましたら、バンバン書いてください!
ほんとに実行できるかはわかりませんけど。